11人が本棚に入れています
本棚に追加
9月10日(下澤裕貴)
自体が動き出したのは日付が変わる直前。大和田の車が自宅をでた。
「こんな時間に……! 麻弥さんと会う気だ!」
こんな天気のときに外出する理由など他に考えられるだろうか?
裕貴は直ぐさま走り道路の脇に立った。相手は車だ。追いかけるにはタクシーを捕まえる必要がある。しかし、車は殆ど走っておらず、直接電話をかけることになった。
沙弥への連絡手段はない。プリペイド式携帯電話でも準備できれば良かったのだが……。
待ちわびたタクシーが到着する。乗り込むとGPSアプリで沙弥のスマホの追跡を開始した。
「キミ、高校生? こんな夜中に親子さんは知っているのかな?」
昨日から制服を着たままだ。地元のタクシー運転手ならこれが文陽高校のものだと気づいているだろう。
「ああ。これは高校時代のもので、当時の友人が集まるから着てきたんです。懐かしくて」
日付が変わったばかりの深夜、高校生が1人で出歩いて良い時間じゃない。運転手は後々面倒になるようなきなことは御免だ! という様子。咄嗟に嘘をついてごまかす。
「ふーん、ならいいんですけど」
信じたようではないが、本人が否定した以上、一介のタクシードライバーが裕貴の素性を確かめることは出来ない。
裕貴のナビに従い渋々といった面持ちで車を走らせた。
ワイパーが忙しなく往復する。時々対向車のライトが水滴に反射して眩しくなる。可能な限り急ぐように頼んだが視界不良に加え大雨の影響で路面も滑りやすくなっており速度はあまり出ていない。
「2つ目の信号を左折してください」
焦る気持ちを抑え、今はスマホに集中するように努めた。この先にあるのは麻弥と沙弥が通う小海高校。麻弥に縁がある場所。もしかしてっと予想したが違うみたいだ。
小海高校を過ぎた大和田の車。
その進路の先にある目ぼしいスポットは……。
“竜宮城”
最初のコメントを投稿しよう!