9月10日(下澤裕貴)

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 ここには浩一と入ったことがある。姉の明里も一緒だった。その時は雰囲気をだすために真っ暗にしてあったが今は、照明が点灯し警察関係者がひっきりなしに出入りしている。 「うっ……」  裕貴が異変を感じたのはある扉が見えてきたときだ。部屋の外でも感じる錆のような匂い。大量の血が流れたのだと考えるまでもなく想像できてしまう。部屋の前ににはあまりに血のにおいむせ返る刑事もいるくらいだ。  扉の前には白髪の刑事もいた。むせ返る若い刑事とは一回りも二回りも年が離れているように見える。若い刑事に“だらしないな”と、むけていた失望の視線が裕貴の方を向く。  裕貴の方に歩いてくる。小柄な体格だが存在感は若い刑事よりもあり、筋肉隆々な男にも負けていない。 「キミが被害者の恋人?」  裕貴は肯定した刹那、刑事の眼光が鋭くなった。当たり前だが完全に信用されているわけじゃないようだ。  温厚な表情に戻った刑事は警察手帳を広げる。 「私は堂本といいます。早速で申し訳ないですが被害者の名前は?」 「えっ? 天川麻弥ですよね……?」  名前を聞かれたのは裕貴が本当に被害者の関係者か確かめるためだと思った。けど、反応を見るかぎり違うようだ。 「天川麻弥。そうですか……。実は身分を証明できるものを所持しておらず……」 「鞄やスマホは!? 麻弥さん登校中に行方不明になったから持っているはずですけど?」  「いえ。鞄やスマホはおろか財布や生徒手帳すら持っておらず……。モチロンまだ捜査を始めたばかりで発見できていない可能性もありますが……」  荷物が消えた……?  麻弥は自主的に姿を消して、少し前に大和田と会ったはず。大和田の家には来なかったし、自宅に持って帰ったなら沙弥が気づく。どこに消えてしまったのか?  「念のため病院まで同行してもらい顔を確認してもらえるか?」    裕貴が了承すると車を手配してもらえることになった。そのとき頻繁に出入りする部屋……おそらく犯行現場の部屋を覗こうとすると堂本がその体で視線を塞ぐ。 「見ない方が良い。なかなかに酷いものだから」    堂本は幼い子供に言い聞かせるように丁寧に説明をした。現場を見ればもっと情報をえられたのかもしれないが、堂本の助言を受け入れお化け屋敷から出た。 「車、まわしてもらっているから少し待っていてくれるか?」  堂本の部下が車を入口正面に運んでくれる。それまで滝のような雨を眺めているとお化け屋敷の出口の方が騒がしくなってきた。 「何するのよっ! 事件を世間に伝えるのが私たち報道の仕事なのよ! 取材させなさいっ!!」  この女性の声……水端明里! 「あれ、大丈夫なんですか? 揉めているみたいですけど……」 「ん? ああ。水端明里。知っている? テレビの報道番組でよく見るけど……」  知っているも何も浩一の姉だ。  
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