9月10日(下澤裕貴)

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 そういえば明里はこのお化け屋敷の取材を強く望んでいた。浩一と取材協力したときテレビクルーの誰かがそんな話をしていたのを聞いた。 「彼女。偶然近くにいたとかで我々より早く現場に着いて取材したみたいなんだよね」  大型の撮影機械は持っていないので撮影はスマホを使ったみたいだ。静止画か動画か………。いずれにせよ現場の映像はスクープになる。 「彼女ねー……お茶の間でのイメージは知的なクール美人って感じで良いけど、実際はああなんだよ。事件のたび、強引な取材をしようとして……。ま、親父さんの仇討ちのつもりなんだろうが、こっちはいい迷惑だ」  警官と揉めているというところまではいかないが、「取材させなさい!」とか「報道の権利を侵害するな!」と騒ぎ、警官に拒絶され続けている。 「なんか……必死ですね。仕事熱心っていうより、追い込まれた人みたいで……。あの人が警察に通報したんですか?」 「違う。通報してきたのは警備員。『お化け屋敷で人が襲われている』って不審な電話を受けて、見回りしていたそうだ」    取材用の機材無いのなら偶然近くにいた? 明里のスクープに対する熱意は土砂崩れのとき浩一がみせたものに似ている。姉弟だからと言ってしまえばそこまでだが、ここまで似るものなのか? 今回も狂気じみたスクープへの執着が神様に届いてこの偶然を引き寄せたのか? 「そう、言えば……」 「ん? どうかしたか?」 「いえ……たぶん思い過ごしです」  過去に戻る前。始めて麻弥の死を知ったのはテレビのニュース。そのニュースを報道したレポーターも水端明里で、遺体発見現場に急いで駆けつけた様子だった。  殺人現場を執拗に取材したがっていたのも、前回と今回と誰よりも迅速に現場に来れたのも偶然じゃないとしたらーー?   麻弥が殺される場所も時間も犯人も事前に知っていたとしたらーー。それを知ることができるのは、未来予知を扱う麻弥以外に考えられる存在……。  裕貴は“そんなはずはない!”と頭を振る。ただの考え過ぎで、根拠のない嫌疑。これくらいで疑っていたら何千、何万の人を疑わなくてはならなくなる。  第一、水端明里は親友の浩一の姉。        浩一とはやり直す前もやり直した今も、かけがえのない親友で、浩一のことはよく知っている。それに信じている。だから、その浩一が好意を寄せる相手が犯罪に関与しているなんてありえない。  車のヘッドライトが裕貴と堂本を照らす。丁度後部座席の扉が目の前に来たところで車は止まり、堂本はその扉を開くと乗るように言った。  これから病院に搬送されたのが麻弥なのか確認しに行くわけだが、その前に沙弥のスマホは回収しておきたい。 「あの……」  スマホを仕掛けたことをどうやって説明しようかと悩む。大和田を疑った理由……。そもそも勝手にGPSを仕掛けたのは違法じゃないか? 悩んでいる間にも車は駐車場を進む。 「ん? どうかしたか?」  「大和田の車が停まっているはずなんです……け……ど…………」    沙弥と連絡が取れないのは困るし不便だ。なんとかして沙弥のスマホを回収しておきたい。大和田の車を探してキョロキョロとしていると見覚えのある場所へ着いた。  ここは5月のプレオープンの時にたこ焼き屋の屋台があった場所。浩一に誘われて来たときのことを思い出すと胸が苦しくなり、言葉が喉に詰まる。この場所にも麻弥との思い出があって、接客してくれたときの眩しい麻弥の笑顔を思い出してしまう。 “ああ……。そうか。コレが違和感の正体。コレが引っかかっていたんだ”   始めてこの違和感を覚えたのは8月1日。浩一とここに来ていたときだった。
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