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映画館を出た3人は沙弥の買ったドーナツを片手に歩いていた。もうすぐバス停。天川姉妹とはそこで別れるというのに本来の目的を果たせていない。
早く連絡先を聞けっと沙弥がにらんでくる。
「そういえば、下澤くんはどこの高校に進学したの?」
業を煮やした沙弥が話しを振る。
「文陽高校。沙弥さんたちは?」
「私と麻弥は小海高校。違う高校だから今日みたいに遊べる日は無くなりそうだね……」
沙弥から絶好のパスが回ってきた。これを活かさなくては男じゃない。裕貴は意志を固めて麻弥に向きあう。
「麻弥さん!」
「は、はい!」
裕貴は麻弥の驚いた反応をみて「しまった」と反省する。緊張のし過ぎで驚かせてしまったようだ。もっとフランクにしようと声を柔らかくする。
「えっ、と……」
改めて言うが異性の連絡先を聞くのはハードルが高い。聞いてしまえば仲良くなりたいと言ってるようなもの。実際そうなのだが意識すればするほど恥ずかしい。
「下澤くん?」
麻弥が不思議に思い、首を傾げる。少し考えこんだ様子を見せたあと、麻弥は涙を流した。
沙弥が魔法を使うときに見せた涙にそっくりだ。
「……そっか」
麻弥は頬を林檎色に染めて、俯いた。彼女の胸にはスマホが大切そうに抱き締められている。
「きっと、私に聞きたいことがあるんだよね?」
麻弥は未来予知を使ったのだろうか? 麻弥の言葉は確信に満ちている。
「私からもお願いしたいけど、ヤッパリ下澤くんから言って欲しい、かな……?」
麻弥は顔を背けると真っ赤な頬を照れた様子でポリポリと掻いた。麻弥は恥ずかしさを押し殺して言ってくれたのに、引き下がるなんてこと出来やしない。
何よりこの夏、麻弥の身に何が起こる。そのとき、前回のように“何も出来なかった、知らなかった”で済ませたくない。麻弥の支えになりたい!
「えっと、今日は楽しかった。その、出来ればで良いんだけどまた、今日みたいに遊べたなら……って。だから、連絡先を教えてくれないかな?」
「うん! 絶対にまた、遊ぼうね?」
麻弥が透き通るよいに綺麗な笑顔を浮かべている。天川姉妹に後押ししてもらう情けなさだったのは、反省するとしても麻弥のこの笑顔を見れたことは宝物だ。
麻弥を死なせてはいけないという想いが、より強固に、より大きくなった。
麻弥とそれから沙弥とも連絡先を交換して、バスに乗った2人を見送ると、溢れんばかりの感情に身を任せて帰路を走った。
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