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天川家
家に着いた沙弥と麻弥。リビングダイニングへ直行すると麻弥はソファにダイブした。クッションに顔を沈め脚をバタバタさせる。
「えへへへ。えへへへ」
「……気持ち悪いよ、その笑い」
沙弥は麻弥の変な笑いかたを注意した。クッションで顔は見えないが、きっとだらしない顔をしているのだろう。
「だって、だってぇー」
麻弥の声が弾んでいる。壁に向かって投げつけたスーパーボールみたいだ。
「そんなに下澤くんと会えたのが嬉しかったの?」
「…………そんなこと言ってない」
「なら連絡先をゲットしたこと?」
「そんなことも言っていない」
「じゃあ、なに?」
うつ伏せのまま、麻弥は「うーんと……」と唸った。
「……映画を観たことで良いんじゃないかな?」
こんなにも雑な誤魔化しかたをする人は始めてだ。沙弥はまた「えへへへへへ」と笑いながら、ソファの上ではしゃぐ麻弥を見て大きく嘆いた。
「ハァ。こんな人が姉だなんて……」
「えへへ。ごめんね」
麻弥は有頂天になっていて、まるで気にした様子がない。裕貴と交際させることが沙弥の目的だが、連絡先を交換しただけでこの浮かれっぷりは、少し腹立たしい。
“現実に引き戻してやろう”っと沙弥はスマホを取り出した。
「そっかぁ。そんなに映画を観たことが嬉しいかったのかぁ。でもこの映画って過激なシーンが多いってわだいだったなぁー」
はしゃいでいた麻弥の脚がピタリと止まった。
「下澤くんに伝えよっ! 麻弥が『エッチな映画を観たことで、はしゃいでいる』って」
「ちょぉぉお! 沙弥! 待っ……! ちょぉぉお」
抜群の効き目だ。跳ねて起きた麻弥は青ざめた顔で沙弥に掴みかかった。麻弥の狙いはスマホだ。焦った様子で送信を阻止しようとしていた。
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