11人が本棚に入れています
本棚に追加
裕貴が通う文陽高校は山の麓にある。電車に揺られて住み慣れた街を出たあと、最寄り駅で降りて新緑に彩られた道を進んだその先。歴史ある校舎が生徒たちを待っていた。
裕貴と同じく新品の制服を着た生徒がいる。彼らと同じ新入生であっても裕貴は半年分だけ先輩だ。校内の勝手は知っているし、入学式やそのあとのホームルームについては既に経験済み。
半年後ぶりに“今日”を繰り返した。
「っと、確かこのあと……」
半年前の今日のことを思い出す。このあと帰ろうとしたところで声をかけられたはずだ。
「あの、俺……水端浩一」
半年前の再現がここでも行われた。一字一句同じ再現で懐かしいという感じがあるが、これから先の半年分の記憶が浩一にはないと思うと寂しい気持ちも強く感じる。
「ああ、えっと僕は下澤裕貴。よろしく」
これが浩一との出会いだった。ごくごく平凡な出会いだったが、少なくともこれから先の半年よく遊ぶ友人になる。
荷物をまとめた2人は帰路へ着く。そういえば始めてあったときは、今みたいにほとんど会話は無かった。そこで裕貴はある考えに行き着いた。
「このあと時間あるならタコ焼き食べに行かないか?」
半年で得た情報があればもっと早く関係を築けるのではないか? っと。その情報の1つがタコ焼きだ。
「あ、ああ! オレ、タコ焼き大好物!」
これからの半年、何度も一緒に食べに行った。浩一にその記憶がなくとも裕貴には残っている。だから、きっとまた仲良くなれる。
最初のコメントを投稿しよう!