高校(下澤裕貴)

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 公園の木々には青葉が生い茂っていた。中央の池では錦鯉が透き通った水の中を悠々と泳いでいる。その傍にタコ焼きの屋台が出店していた。  そこでタコ焼きを買うと池を囲う柵に寄りかかった。 「下澤さんはどうしてこの高校を?」 「裕貴でいいよ」  浩一には“裕貴”と名前で呼ばれていた。今更苗字で呼ばれると首筋がくすぐったくなる。 「なら、オレも浩一で」 「うん。僕が文陽高を選らんだのは文系の大学への進学率が良かったから」 「あっ! それオレも同じ! オレ、将来、ジャーナリストになりたいんだ」    浩一の父親は確かジャーナリストだと言っていた。記者を目指すのも親に憧れてのことだろうか? 「へー。カッコイイじゃん! 」 「だろ! 政治家の汚職とか世間を驚かせる事件をバンバン引っこ抜いてやるぜ!」 「おう! 浩一のスクープ楽しみにしてるわ!」 「で、裕貴は?」  「ん?」 「裕貴は文系の大学に行って将来どうするんだって話し! まさかオレにだけ喋らせたりしないよな?」  浩一が爪楊枝の先を裕貴に向けて念を押した。爪楊枝の先端に付いたかつお節が風に揺れている。 「分かってる」  裕貴は観念した犯罪者のように手を上げてみせた。 「具体的には決まってないけど日本と外国を繋げるような仕事に就きたいんだよ! 通訳とか翻訳家とか」 「んだよ! 人のことをカッコイイっておだてておいて、裕貴だってカッコイイじゃねぇか!」  裕貴が将来のことについて話しをしたのは両親以外に中学の担任しかいない。中学の友達は皆「仕事を選ぶなんてまだまだ先の事だろ?」っと、そんな意見ばかりだった。もちろん、同級生の中には真剣に考えていた人もいるだろうが、少なくとも裕貴の周りにはいなかった。  だから、他人に伝えるとカッ!っ全身が熱くなった。 「なんか、恥ずかしいな。将来のことを語り合うなんて」 「裕貴から話しを振ったんだろ? それにオレらの年齢からすれば“もう考えてるのかよ”って茶化されるかもしれないが目標に邁進するのは良いことだと思う」  目標の無い奴はダメ、目標のある奴は偉い……とは思わないが、浩一の言葉の通りだと裕貴は首を縦に振った。
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