高校(天川沙弥)

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「私の素晴らしいアイディアを聞いて腰を抜かすなよぉ? 」 「もったいぶらなくていいから」 「では、発表いたします! その方法とは“他の男子の意見を参考にする”です!」  “流石、佳子だ”と沙弥は感心した。誰でも思い浮かぶアイディアをこうも自慢げに発表できるとは……。 「おみそれしました」  そっと皮肉を込めておく。 「そうでしょ? それでね、私の知り合いに打って付けの人がいるから紹介するよ!」  佳子はノリ気だが、沙弥はあまり気が進まない様子。何せ言っているのは佳子だ。食欲最優先で色恋沙汰には無縁の彼女に、恋愛に詳しい知人がいるとは思えない。   「えー……っと、ヤッパリ遠慮するよ」 「もうそんな事を言ってばっかりだから、いつまでも悩むことになるんだぞぉ!」 佳子は机に身を乗り出して沙弥の鼻を人差し指で、弾いた。 「それもそうか……」  佳子が色恋沙汰に無縁だとして、沙弥自身は? っと聞かれれば決して経験豊富な訳ではない。初恋の相手は小学校のときのクラスメイト。特別な進展も無かったし、中学生になってからは友人の話しを聞いて盛り上がっていただけだ。  沙弥はデコピンならぬ鼻ピンをされて赤くなった鼻を押さえた。 「分かった。いつなら良い?」  麻弥の死までの期限は決まっているから、1日たりとも無駄に出来ないーーーーなんてのは一般人の考えで沙弥の考え方は根底から異なっている。  “ダメだったらまた過去へ戻ってやり直せば良い”  だから自分の恋愛経験不足がネックとなるなら、経験を積めばいい。佳子に紹介という点に一抹の不安はあるが……。 「今週の土曜日とかどう?」 「うん。大丈夫」  沙弥は卵焼きを箸で掴むと佳子の口元へ運ぶと、それは一瞬で消えた。蛇が蛙を丸呑みする時みたいに、ひと口で佳子の胃袋へ落ちていく。 「ちゃんと噛んで!」 「へーきへーき! 私の胃酸は酸で出来てるから」  また訳のわからない事を言い出したと沙弥は頭を抱える。反面、麻弥と裕貴を交際させる計画に関しては、課題が見つかったということでグツグツに燃えている。   “私、2人のために恋愛マスターになるから”  沙弥は心のなかで呟いた。
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