4月17日(下澤裕貴)

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4月17日(下澤裕貴)

 漸く高校生活も慣れてきた。浩一以外にも友人ができて楽しい学校生活を過ごしている。その反面、1日1日が終わることに焦りを感じていた。   「こうしている間にも麻弥さんが死んでしまう日が近づいているのに……こうしていていいのか?」   せっかくの土曜日。休日は麻弥との距離を縮める絶好のチャンス。にも関わらず裕貴は自宅のベッドで横になっていた。 「とはいえ頼みの沙弥さんは“恋愛経験値を積んでくる”って意味のわからない事、言ってるし」  沙弥とのメッセージ画面を閉じるとスマホをベッドに投げ捨てた。  “自分で誘えばいいんじゃないか?”  無造作に置かれたスマホを見て思い浮かんだ。女の子を遊びに誘ったことのない裕貴にしては大胆な思いつきだ。もしかしたら放置されたスマホが自分の仕事を求めたのかもしれない。 「……そんな事、できるわけないか」  麻弥とのちょっとしたメッセージ交換は続いている。ただ、内容はあまりにもなく友人同士の会話にも見えない。そんな状態で誘っても断られるのがオチだ。  “今は関係を進めるより、維持に努めるべきだ。”  裕貴はそう結論づけるとテレビを点けた。どのチャンネルも報道番組ばかりでニュースが流れる。政治、事件、地域おこしのイベント……色々だ。  ふとチャンネルを回す指が止まる。見慣れた街を女性レポーターが歩いていた。生放送のロケで訪れているようだ。  「ん? このレポーター……どこかで見たことあるよーな? “水端明里”って名前、どっかで見たんだよなぁ」  確か、過去へ戻って来る前の記憶の中で見たはずだ……。記憶の糸を手繰り寄せて答えに辿り着いた。  麻弥の死を速報で伝えた人だーー。  まだ若いように見える。恐らく大学を卒業したばかりの年齢だ。若いうちからレポーターの仕事をしているということは優秀なのだろう。 『本日レポートするのは主にオカルト界隈から指示されるアーティスト、大和田定信さんのアトリエです』  大きな白い橋から歩いてきた明里は洋館の前に立った。道路に隣接しているが、忘れられたようにポツンと立っている。なんでも明治期に洋館を模して建てられた木造住宅だそうで、ホラー映画の撮影にも使われたことがあるそうだ。それを買い取ってアトリエに改造したらしい。  続いて詳しい経歴が紹介されたのだが、そこで驚くべき事実が発覚した。  なんとつい先日天川姉妹と観た映画『殺戮の日本人形』の美術や大道具を担当していた。他にも聞いたことのあるホラー映画で活躍していたようだ。
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