4月17日(下澤裕貴)

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 女性レポーターが大和田と対面し、アトリエの中を案内してもらう。実際に映画撮影で使用した道具も保管してあるようだ。 1番見覚えがあるのは日本人形が持っていた髑髏の山だ。髑髏の山ををカラカラと引き摺りながら主人公たちを追い回していた。正直、そのシーンだけが唯一ホラーっぽかったのだが……。  他にも一切使われず荷物となっていた日本刀に主人公とヒロインが一夜を共にした棺、他にもサブキャラたちが愛を育んだ血まみれのベッドが紹介された。 「ホラー美術の巨匠。それでいいのか?」  作ったものを聞くとツッコミたくなる。ホラー映画で使うために作ったハズの美術なのに、別の意味で使われた作品が多い。巨匠の無駄遣いじゃないか……。  アトリエの案内が終わったあとはインタビューに移った。「どうしてこの世界にはいったのか?」っというありふれた質問に大和田が答える。 『子供のころから、幽霊とか悪魔とか黒魔術とかオカルト全般が好きで、いつか本物を見てみたいと思っていたのですが、中々本物には会えないので、“本物がいたらこんな感じかな?”っと想像して作り始めたのがキッカケです』   大和田の答えにレポーターが笑顔で相槌を打った。そのあと、いくつか質問をしたあと最後の質問で特集コーナーを締めくくるようだ。 『それでは最後に大和田さんが好きだと仰っていたオカルト。信じない人も大勢いるかと思いますが、大和田さん、ご自身は? 未だに信じていますか?』  レポーターの口調は“オカルトなんて非現実的だ”っと決めつけたうえでのものに聞こえた。   『モチロンですよ。夢を叶えるのに必要なことは努力と信じること。だから信じています』  よく聞く言葉だけど良い言葉だ。やりたいことがあるなら、努力しないといけない。  裕貴は本棚から2冊の本を取り出した。片方は英語で書かれ、もう片方は日本語に翻訳されている。それと自分なりに翻訳してみたノートを広げた。  比べて読むと言葉のニュアンスや言い回しが自分でやるのと違っており勉強になる。大和田の言ったとおり、夢を叶えるために努力は必要だ。  本を読み勉強をしているとスマホが震えた。初期設定のままの着信音が駆け巡る。 『もしもーし? 今、暇か?』  声の主は浩一だ。裕貴はノートを見た。 「暇ではないけど、忙しくもないな」 『じゃ、今から会えないか? 凄いモン見つけたんだよ!』  電話口から興奮した様子が伝わってくる。 「凄いモンってなんだよ?」 「それは見てからのお楽しみだ! いいから早く来いよ」  どこにいいかと場所を聞くと電話を切った。休日に呼び出されるなんて過去へ戻ってくる前だと、もう少しあとになって気を許し合ってからだった。 ーー少しずつ変わり始めている  それは未来が変わるという証拠であり、麻弥が死ななくてすむ未来があるという確証。 「あとは“努力と信じること”だな」  裕貴は急いで家をでた。その瞳の先には麻弥が死なない、希望に満ちた未来が映っている。
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