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スマホを見たり喋ったりしながら時間を潰し漸く裕貴たちの番になった。
露店の中にいたのは2人だけ。タコ焼きを焼いていたのは白髪が混ざり始めたオジサン。もう1人は売り子の女性だ。
「お待たせいたしました。お次のお客様どうぞ!」
裕貴の全身に電気が走った。この声は天川麻弥だ。露店のロゴが入った赤いキャップを被った麻弥の笑顔が眩しい。
「いらっしゃい、ませ」
丁寧なお辞儀と口調で麻弥は裕貴を
露店に迎え入れた。ただのタコ焼きを注文するだけなのにトンデモなくハードルが高くなったように思う。
「ご注文は?」
「えっと、竜宮城タコ焼きのオールド味を1パック」
「かしこまりました」
裕貴の注文を繰り返して隣のオジサンに伝えた。無愛想に頷くとタコ焼きを焼き始める。
「バイト?」
「うん」
少しだけ視線をズラすと寡黙な中年男性は鉄板とにらめっこしている。よく言えば職人気質だが、接客業には向かなそうな仏頂面だ。
「おまたせしました」
アツアツのタコ焼きが入った袋を麻弥経由で受け取る。匂いだけで美味しいと分かる品だ。
「アツいので気をつけてください」
「ありがとう」
裕貴は列から離れた。少し待つと浩一も購入を終えた。
「さっきの子、知り合い?」
「ああ、中学校の同級生」
「へぇー」
浩一はもう1度麻弥をみた。丁度お爺さんに釣り銭を渡しているところ。接客業のお手本みたいな対応だ。
「浩一?」
裕貴は浩一の顔色をうかがった。心なしか普段の様子と違う気がする。
「ああ、ワリィ! 空いてるベンチ探して食おうぜ」
さっきの雰囲気は気のせいだったのだろうか? いつもの、タコ焼きに夢中になる浩一に戻った。
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