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4月17日(天川沙弥)
コンコンコンっと部屋のドアがノックされた。その音で沙弥の意識が覚醒する。
「どぞー」
「おはよう沙弥……って起きたばっかり」
「麻弥。まだいたの? 今日から短期バイトでしょ?」
「もう出るよ。その前に寝ボスケを起こすようにお母さんに言われたの。今日予定あるんでしょ?」
麻弥は腕を組んでベッドを見下ろしている。沙弥は大きくアクビをするとスマホで時間を確認した。
「まだ時間あるじゃん……」
もう一度沙弥は大きなアクビをする。その頭に麻弥は手を乗せた。
「いつも寝癖、酷いでしょ? 早く起きて直しなさい」
沙弥は麻弥の手を掴むと、彼女を引き寄せた。寝ぼけ眼でもずっと一緒に暮らしてきた双子の変化を見抜けぬほど沙弥の目は節穴ではない。
「……化粧」
「へっ……!?」
麻弥の焦りが見て取れる。気づかれるとは思っていなかったようだ。
「な、にを言ってるのかな? 接客業だよ? み、見た目くらい気にするよ」
「ふーん……」
沙弥の目はこれ以上ない“猜疑心の見本”だ。麻弥と沙弥の外見は見分けがつかない。つまり沙弥から疑いの眼差しを向けられるのは自分で自分を疑っている錯覚に陥ってしまうのだろう。
麻弥の目が回遊魚のごとく泳ぎ回っている。
「ああ! 下澤くん、竜宮城のプレオープンに行くから!」
「えっ!? 何で沙弥が知って……あっ!」
麻弥は沙弥が「ヤッパリ」っという顔をしたことで、カマをかけられたのだと気がついた。慌てて口を噤むがもう遅い。
「もう! またっ! 私をからかって」
麻弥は沙弥の手を振り払った。
「麻弥。私利私欲に魔法を使うのは良くないよ?」
「ちがっ! わ、私が選らんだバイト先に偶然下澤くんが来るだけだから」
「麻弥!」
部屋から出て行こうとする麻弥を呼び止めた。
「なに?」
麻弥は声に反応して振り返った。頬が赤くなっている。バイトを選んだ理由がバレたのが余程恥ずかしかったらしい。
「可愛いよ!」
「……ありがとう」
バタンっと扉が閉まった。随分とスローペースだが2人の仲が進んでいるようで微笑ましい。
着替えをするためタンスに手をつけたところで気がついた。今までの過去改変で、麻弥がバイトをしたことはなかった。
「下澤くんを連れてきたのは正解だったかな」
沙弥は麻弥の反応を思い出してクスクスと笑った。
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