4月17日(天川沙弥)

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「えっとそれから……それから……」 「もう良いよ佳吾くん。十分、参考になったよ!」  佳吾が一通り喋り終えたのを見計らい、話しを遮った。小学生という先入観を持っていたが、思っていたよちゃんと恋愛をしているようだ。むしろ、最近になってやっと連絡先を交換した麻弥や裕貴より進んでいるかもしれない。  ただ、恋愛テクニックということを考えると佳吾の話しでは物足りない。もっと経験を積んだ人じゃないとダメだ。  それでも今日、ここに来た意味はあった。佳吾の話しを聞いて思い出した。夏祭りだ。佳吾が去年行ったという夏祭り。恐らく『小山海祭』のことだろう。夏の恋愛と言えば夏祭り。夏祭りと言えば恋愛。これはもう2人で行かせるしかないっとほくそ笑んだ。 「ねぇ、佳子。今年も夏祭りってやるんだっけ?」    佳子は食べかけの抹茶アイスをテーブルに置くと沙弥の方を見た。   「夏祭り? 『小山海祭』の事でしょ? 今年も開催するらしいよ」  去年、沙弥も参加した覚えがある。麻弥と中学校の友達と一緒に屋台を巡った。りんご飴にわた菓子、焼きそばを食べたし、金魚すくいに射的で勝負をして楽しんだ。ただ、最後の花火……受験生ということもあり、打ち上がる前に帰って来るように親に叱られたので間近で見られなかった。   参考書と窓の中の大輪を交互に見るのは寂しくて、きっと麻弥も同じ気持ちだったはずだ。  1年越しの花火は好きな人と、払拭される寂しかった思い出。真っ暗な中、散った花火の残り火が2人の顔を仄かに照らし、ロマンチックな雰囲気へ……。 「勝った……!」  今、沙弥は解を導く方程式を見つけた気分だ。麻弥と裕貴の仲を深めつつ、小山海祭の花火へ照準を合わせる。これで決まりだ。 「勝ったって?」  思わず口から漏れた言葉に栗林兄弟が反応する。2人とも意味が分からず不思議そうな顔になっているが、気にしない。 「ねぇ、佳吾くん。小山海祭の花火を恋人同士見るのにオススメの場所って分かるかな?」  沙弥は「できるだけ花火に近くて、2人きりになれるとこ」と要望を付け加えた。  佳吾は腕を組んで考えこむ。「そんな事言われてもなぁ」っとボヤきつつも、いくつか思い当たる場所は知っているようだ。「土手は危ないし、山ちゃん家の庭は人がいるし」っと口に出しながら場所を思い浮かべている。 「あっ! そうだ! 橋の下なんかどう?」 「橋の下?」  打ち上げは確か河川敷で行われている。その川沿いなら確かによく見えそうだ。ただ1つ気がかりがある。 「橋の下って降りられるの?」  堤防は急な斜面で草が生い茂っている。背が高く茎は丈夫な草を掻き分けて降りるのは骨が折れるだろうし、疲れてボロボロになったらムードどころではなくなってしまう。 「チッチッチ! あるんだなー。案内してやるよ!」  佳吾はごくごくとコーラを一気に飲み干すと特大のゲップをした。
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