4月17日(天川沙弥)

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 ファミレスを出て沙弥たちは川に沿って歩く。先頭を歩く佳吾はご機嫌で鼻歌混じりだ。  子供の身長と同じくらい成長した雑草が道路との境の柵の向こう側で風に揺れている。覗いてみるがやはり降りられそうにない。  太陽の温もりを全身で感じながら暫く歩くと小山海神社へ着いた。ここが祭りの会場になる。祭り当日は広大な駐車場から境内までを屋台が占拠して浴衣を着た大勢の人で賑わう。  神社を過ぎると打ち上げる河川敷があり、更にその先に目的地の橋がかかっていた。鉄筋で建設された無骨な姿。白い防錆を塗られたその橋はまるで骨格のトンネルのようだ。  沙弥は川の方を見ていた。流れは一見するとゆっくりだが、水の中は底が見えないほど深くどうなっているのか分からない。まるで温厚な大蛇が寝そべっているようで静かな不気味さを感じる。 「ねっねっ! ちょっと見てよアレっ!」  何を見つけたのか佳子は沙弥の肩を叩いた。沙弥が振り向くと白い洋館の前にミニバンが停まっている。それとカメラを担いだ人にマイクを持った女性もいる。 「すっげぇ! テレビの取材じゃん!行ってみよーぜ!」  一目散に佳吾が走り出した。名所も特産品もないこの街にテレビ撮影が来ること自体、一大事。好奇心に駆られ見に行きたくなる気持ちもわからなくない。 「待ちなさい! 佳吾! 走ると転けるから!」  こういうとき佳子もちゃんとお姉さんをしているようだ。佳子のことを少しだけ見直すと沙弥も2人のあとを追った。
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