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学校に行くつもりで家を出たが、結局行く気になれなかった。裕貴は高校の制服を着たまま街をぶらついている。
補導されるかもしれない‥…頭の片隅にその考えはあるが、どうでも良かった。そう、補導に限らず、命が理不尽に奪われるような事態になっても、世界が滅びるような事態になっても……もう、どうでも良かった。
裕貴は歩くのを止める。目的地を定めず歩いていたつもりが思い出の場所……中学校の校門へ来てしまっていた。
卒業の日、沙弥と二人で歩いていた麻弥を改めて呼び起こす。今でも鮮やかに彼女の笑顔を思い起こせる。
「下澤くん!」
思い出に浸っているとあの日と全く同じ声が聞こえた。あの日、卒業式のあと裕貴を呼びとめたのは沙弥だった。そして今も呼び止めたのも沙弥だ。
「久しぶり、です」
「あの、この度は何といえば……」
中学校卒業以来の再開だ。制服も女子高生の制服になり格段に大人っぽくなっている。よく見れば頬には涙のあとが残っていて、目は充血していた。
「下澤くん少し、歩きませんか?」
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