4月17日(天川沙弥)

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 白い洋館の前でインタビューが行われていた。インタビューを受けている陰気そうな中年男性がこの洋館の主らしい。  この洋館について語ったあと、陰気そうな男は無精髭を触りながら自分の仕事について語った。どうやらホラーをテーマにした作品を作るアーティストで、ホラー映画の撮影で使う道具の制作も請け負っているそうだ。 「へえー。『殺戮の日本人形』だってさ。沙弥、知っている?」  沙弥の隣の佳子が小声で聞いた。沙弥は「一応、知っている……」と返した。 「沙弥? もしかして、つまらなかった?」  沙弥の微妙な表情を見てそう思ったようだ。 「ど、どうだったかなー……。凄い内容だったみたいだけど」  麻弥に裕貴と映画を観せようと画策したときにこの作品について調べた。 それに内容も確認済み。淑女の口から言える内容じゃなかった。  沙弥の反応を見て佳吾が目を輝かせる。何か勘違いしたようだ。 「いいないいな! 俺も観たい! 俺、ホラー超好きなんだ!」  佳吾が子供らしく純粋な目で沙弥を見上げる。少しだけ心苦しいのは映画の内容を知っているからだ。映画を観たあとの麻弥と裕貴の反応は面白かったが、純粋にホラーを楽しむ小学生が観たら失望させることになる。 「とっても怖いからもう少し大人になったら観てね!」  沙弥は嘘をついた。この子を落胆させないための優しい嘘。 「ちぇっーー」  佳吾は不貞腐れて足元の石コロを蹴った。なんだかこうしていると本当の弟ができたみたいで微笑ましくつい、笑いがこぼれてしまう。  微笑ましく思い笑っていた沙弥が異変を感じたのはその時だ。背筋に冷たいものが走る。顔を上げた瞬間、異変の正体を悟った。インタビューを受けていた中年男性が沙弥たちを睨んでいる。男のドス黒い情念が渦巻く瞳の中心にいるのは沙弥だ。  作品にケチをつけていたのを聞かれたのか。 「そろそろ行こうか?」  沙弥は男の薄気味悪い目から逃げたく提案する。タイミングよくテレビクルー達は洋館の中へ入って行って行った。そのお陰か佳吾と佳子は提案をアッサリ受け入れてくれた。  橋まで戻ると柵の隙間を通り抜ける。 「コッチコッチ!」  佳吾は忍者のような動作で草の間をすり抜けて進んで行く。平気な顔で進む佳吾と裏腹に佳子はおっかなびっくり進む。 「ね、ねぇ佳吾……ここ、虫でないよね?」 「バッタもカマキリも出るぜ。あとあとこーんなでっかい蛇も見たぜ!」  佳吾は両手を1杯に広げて蛇の大きさをアピールした。1メートルくらいだろうか。かなり大きい。 「姉ちゃんは虫とか蛇は平気なのか? 」 「私?」  草村を少し進んだところに階段が潜んでいた。沙弥は佳吾の後を追って階段を降りる。 「んー。バッタもカマキリも平気だけど大きな蛇は怖いなぁ」  階段を降りた先はコンクリートで舗装されている。人1人が通れるくらいの幅しかないが橋の下まで行けそうだ。 「俺の姉ちゃん、ビビリだから蝶々も怖いんだぜ、ダッセーだろ」 「それは、まあ……想像できるよ」 「こら、佳吾。こんな危ない場所来たらダメでしょ!」  沙弥は肩に目を向ける。両方の肩は震える手でガッチリ掴まれていた。歩いてみて感じたのだが片側は川、反対側は雑草と狭く花火が打ち上がる日の落ちた時間帯に歩くには危険過ぎる。    「着いたぜ! ここなんかどうだ?」    橋の下までくれば足場は広く安定している。花火を楽しむには十分だ。それに遮るものがないのはポイントが高い。 「こんな良い場所。教えてくれてありがとう」  沙弥は佳吾の頭を撫でて褒めた。満足そうな佳吾には申し訳ないが、ここを使うかどうかは要検討だ。2人の仲は発展して欲しいが、そのために危険を冒せられない。    
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