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「やっ、やだなー沙弥。ストーカーって後を付け回す人のことでしょ? 私、後を付け回したりしてないよ……?」
沙弥はチラリと麻弥を見る。オロオロと狼狽えていた。
「ストーカーって知っている?」
「まあ、一般常識の範囲内でなら」
好きな人の家の前に張り付いたり、意中の人の後を追ったり、より悪質になれば盗聴や盗撮、強引に交際を迫ったりする輩のこと。
麻弥は己の行動を顧みた。中学卒業以来、裕貴と会ったのは映画館と竜宮城でのバイトのとき。メッセージだって風前の灯のような状態だ。
「ぜ、全然、私とは違うじゃん! ぜんぜ……ん…………」
過去の行動を振り返ったが思い当たる節はない。ストーカー呼ばわりされるのは不本意だ。だけど、麻弥の中で何かが引っかかる。
「例えばさ、相手のスケジュール帳を盗み見て、出かける場所を知る。そこへ行くのはどうなんだろう?」
沙弥の言葉で引っかかっていたものの正体が分かってしまった。スケジュール帳は盗み見なかったが裕貴の未来は盗み見た。そして裕貴が行く予定だった竜宮城にバイトとして行くことで、偶然を装った邂逅をしてしまっている。
「アレ……? やっちゃってる……イヤイヤ、待って! もしかして、私……ストーカーよりも質が悪いんじゃぁ?」
麻弥は気づいてしまった。未来予知は沙弥以外なら誰の未来……1分後でも10日後でも1年後だって覗き見できてしまう。それも起きる可能性が高い未来から順に……という制限はあれど、スケジュール帳の覗き見より正確な行動の把握が可能だ。
加えて大きな声では言えないが盗聴や盗撮に特別な機器は必要ない。本気になった麻弥の前にはプライバシーもプライベートも丸裸同然。
「あれ? あれあれあれ? 超一流のストーカーじゃん、わたし……」
フローリングの床に少女は蹲った。
“未来ストーカー”
未来予知を駆使する麻弥を的確にとらえている。ショッキングな事実に打ちのめされた麻弥は立ち上がる気力さえない。
「落ち込む必要なんてないんだよ?」
沙弥は床とにらめっこしている麻弥の肩にそっと手を置いて、優しく声をかけた。
「沙弥……!」
沙弥の顔を見た麻弥の顔色は少しだけだが良くなっている。沙弥の言葉を励ましと受け取ったからだ。
自らの半身のように育ってきた双子。魔法が使えることに対しての絶対の理解者。軽口を叩いても沙弥は妹だ。落ち込めば励ましてくれるのだと麻弥は期待した。
しかし、次の沙弥の言葉は麻弥の期待を無惨に切り捨ててしまう。
「だって、普通のストーカーと違って何一つ証拠は残らない。証拠がなければ逮捕されない。これからもジャンジャン未来予知をしてストーキングに磨きをかけよう!」
「ちっがーーう! 私はストーキングをしたいわけでもストーカーになりたいわけでもないの!」
「そうなの?」
「そうに決まってるでしょ! 私は普通の女の子でいたいの!」
麻弥に限らずだがストーカー呼ばわりされて喜ぶ人はあまりいない。ましてや超一流のストーカーの素質があるとなれば必死に否定したくもなる。その気持ちは麻弥の顔と声からも読み取れた。魔法を使っている時点で普通と言えるか微妙なラインだが。
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