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「麻弥がストーカーのプロなのは周知の事実として」
「私がストーカーってことを常識に組み込まないでくれる? ストーカーじゃないけど」
「ゴールデンウィーク中、下澤くん林間学校だそうだよ」
「えっ? ほんと?」
沙弥が見せた裕貴とのメッセージ画面。沙弥が連休の予定を聞き、裕貴から返ってきた返事には林間学校に行くと書いてあった。
「なんだー。私から頼む前に沙弥、予定する聞いてくれてるじゃん! 隠さなくても良かったのに」
さっきまでの表情とは一転し、麻弥は柔和な笑顔になった。
「だって麻弥に言ったら、不安で不安で夜も眠れなくなるでしょ?」
麻弥は言っている意味が分からないと不思議そうな顔をした。彼女のサラサラヘアーの上には3つくらい「?」マークが並んでいそうだ。
「下澤くんたち2泊3日でキャンプするらしいよ」
「キャンプ……。私怖いの苦手だから屋外でのテント泊とか絶対ムリ!」
キャンプ場にも色々あるが麻弥が想像しているのは林間キャンプ場だ。薄暗い森は不気味で、幽霊や殺人鬼が潜んでいるのではないかと怖くなる。麻弥のようにホラーが苦手な人なら尚更で、麻弥も想像して身を震わせていた。
「そうじゃなくて! 幽霊とかオカルトじゃなくて……! キャンプだよ? 肝試しにキャンプ飯、野外学習、キャンプファイヤーそれにフォークダンス! 男女が仲を深めるイベントが満載なんだよ」
麻弥はまくし立てるように言った沙弥の言葉を咀嚼し、順番に理解していく。沙弥が今挙げたイベントはどれもこれも男女で行うイメージが強い。沙弥の言わんとしていることを理解した麻弥の顔がどんどん青ざめていくのは、思い浮かべた映像の中の裕貴の隣に知らない女子が立っているからだ。
「あはははー……沙弥ったら不安を煽るのが上手なんだから」
それは沙弥に言っているようで、自分の中の不安を拭おうとしているようにも聞こえた。
「まったくもぅー……。で、でも用事を思い出したから部屋に戻るね? 食器洗い宜しく」
そう言うと麻弥は足早にリビングをあとにした。
「全く。しっかりしなさいな」
麻弥は部屋を出ていくとき、スマホを大事に胸に抱いていた。漸く進展してくれるかもしれないと沙弥の胸の中で期待が踊りだす。
「麻弥しっかり!」
沙弥は天井を見上げた。上の階から扉の閉まる音が聞こえた。
「でもまあ、男子と女子、別々にキャンプするらしいんだけどね」
ゴールデンウィークの前半が男子、後半が女子で分かれてキャンプするらしい。因みにキャンプファイヤーやフォークダンスとかもやらないそうだ。
だから、暗い森の中を女子と手を繋いで歩くことも無いから吊り橋効果が発動することもない。コッソリとカレーライスに仕込まれたハート型の人参にドギマギすることも無い。キャンプファイヤーの幻想的な光の中、女子と身体を密着させ踊ることも無い。
何がどうなっても裕貴が女子とイチャつくような展開には発展しない。
「ごめんね、麻弥。これもアナタを想ってのことなの」
謝罪の言葉を麻弥の部屋へ向かって投げた。これで麻弥が積極的になってくれるといいのだが……。
直ぐにドアが開く音がするとパタパタとスリッパの音が階段を降りてくる。
「嘘つきーーーー!」
リビングにまた顔出した麻弥が叫んだ。もうバレたらしい。
「魔法を使う前にスマホをつかえ! 未来ストーカー!」
麻弥の頬には涙のあとがあった。裕貴に連絡した訳じゃなく魔法を使って未来をみたようだ。
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