5月1日(下澤裕貴)

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 キャンプ場の中は枯れ葉の茶色と雑草の緑でモザイクアートのようになっている。生徒たちは指定範囲内の好きな場所にテントを設営し、土地を占領した。  このキャンプ場の管理人は校長の親族らしく、特別に貸し切りにしてもらっているそうだ。ただ、その対価として、冬季休業の間に荒れたキャンプ場を掃除しなくてはいけない。 「ま、確かにこの状態じゃあ客は呼べねーわな」  浩一が地面を蹴ると枯れ葉が宙に舞う。伸び盛りの雑草は踏んでも踏んでも活き活きとしている。 「おーい、浩一! 裕貴! 手伝ってくれ」  叫んだのは同じ班の坂本だ。炊飯棟ではもう1人の班員の竹林がカレー作りに勤しんでいる。 「おー!」    裕貴は手を振って応えた。浩一も同様に右手をあげると炊飯棟へ向かう。裕貴は浩一のあとを追う前に空を見上げた。普段見る空よりも遥かに広く、青い。 「合羽……必要になるのかな?」  頭上に広がる空は澄み渡っている。雨を予感させる雲もない。見える雲と言えば餅を伸ばしたような細長く薄っぺらい雲だけ。未来予知も外れるのかと思ったが、いつ降るかは言っていなかった。 「どうかしたか? 裕貴」  浩一は後ろで立ち止まったままの裕貴を不審そうにみる。 「いや、晴れているなーって」 「裕貴ってそんなこと言うキャラだっけ?」  浩一と麻弥は1度竜宮城で顔を合わせている。素直に麻弥のことを考えていたと言えば良いのか? 「いや。現実逃避したいだけ。これから出来上がる激まずカレーから」    やはり言うのは止めた。浩一は大切な友達だが麻弥のことは言いたくない。自分だけの秘密にしておきたい。 「おいおい、まだ作ってもいないんだからマズいって決めつけるなよ」  既に1度食べているのだが言っても信じてもらえない。否、激まずカレーができると知っているのだから回避すれば良いのだ。 「かもな。じゃ、僕らも早く行こう。本当に激まずカレーが出来る前にさ」  このキャンプ場で火を使えるのは炊飯棟のみ。男子だけのキャンプでも制限時間を設けなければいけないくらいには人数がいる。班員全員がキャンプ未経験の裕貴たちには中々に厳しい条件だ。だが今回の裕貴には失敗の経験がある。少しはマシなカレーになるハズだ。
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