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 二人は並んで歩いている。暫く無言のときが続く。中学のときもほとんど話したことがなかったうえ、沙弥は身内に不幸があったばかりだ。何を話せばいいか分からない。  長閑な街に横たわる大きな道路を車が忙しなく走っていく。 「……麻弥のこと覚えてる?」  沈黙を破ったのは沙弥だ。 「うん。とは言っても元々関わりが少なかったから沢山じゃないけど……」 「あはは。そうだね。何回言っても麻弥は下澤くんと話そうとしなかったからね」  「……僕、何か嫌われるようなことしたのかな?」 「ううん……。むしろ逆……」 「逆?」 「麻弥は下澤くんと話したがっていたんだよ?」  沙弥の言葉に裕貴は「えっ!?」っ抜けた声を出して驚いた。天川姉妹と言えば可愛いと有名で、修学旅行の夜に男子学生だけで行われたアンケートではダントツの一位だった。  それに対し裕貴は特に目立つところのない生徒。彼女から見れば道端の雑草程度だと思っていた。それが話したいとは……。
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