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普段の田沼は陽気な父親みたいなイメージがある。いつも明るく休日には子供とキャッチボールをしていそうな子供好きな頼れる父親というイメージ。鬼のような顔をした今の田沼からは微塵も感じ取れない。
裕貴たちは「怒られるようなことはしていないよな」っとアイコンタクトを交わした。
「先生。どうしたんですか?」
坂本が聞くと田沼は声を平常に戻して話だした。それでも田沼の声からは焦燥が滲みでている。
「いいか! キャンプは中止だ。急いで荷物を纏めて管理棟に行くんだ! テントやシェラフ。学校の物はそのままでいいから各自の荷物だけ纏めて急げ!」
「先生、中止って……」
竹林はその先の言葉を飲み込んだ。テントの入口から見た屋外は異常なほど雨が降っている。激しい雨を“バケツをひっくり返したような雨”と比喩することが多いが、それすら生易しく思えてしまう。
「今、校長と学年主任の先生が通学用のバスでコッチに向かってるから心配すんな!」
そう言い残し田沼は雨の中を駆けて行く。他のテントにも同じように避難を指示する必要がある。その背中からは“教師として生徒を守る”という責任と義務が熱く伝わってきた。
ーー良い先生だ!
裕貴は感心と感謝の念を抱いた。
「僕たちも管理棟に急ごう」
田沼に応えるには田沼の指示に実直に従うことだ。全員が同じ気持ちで「応!」っと返事をすると荷物を鞄へ押し込み、迅速に避難の準備が整った。
浩一がぶら下がっていたランプを持って暗闇を照らす。雨脚は激しく滝の中にいるようだ。
「はぐれるなよ!」
浩一が雨音に負けないように大声を出した。
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