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管理棟には既に多くの生徒が集まっていた。その殆どが髪の毛の先から靴までずぶ濡れで、床には水が溜まっていた。
裕貴は麻弥のアドバイスでレインコートを着ていたため比較的濡れていない。麻弥にお礼を言わなくてはいけないっと思いながらも管理棟の中では大人しく待機することにした。
裕貴たちのあとにもテントから避難してきて、中は大混雑している。田沼は各班のリーダーに点呼を取るように告げ、全員がいるのを確認すると一安心し、胸を撫で下ろした。
きっとこの場で緊張感を持っていたのは田沼だけだ。その田沼でさえ心の中では“直ぐに、迎えのバスがくる。何事もなく学校へ帰れる”と高を括っていた。
やがて駐車場に光が差し込む。2つの目玉を光らせて大型のバスが到着する。少し遅れてもう1台も……。
「よーし! バスが着いた! みんな慌てず、急いでバスに乗れ!」
突然起きた予想外の豪雨でキャンプは中止になった。生徒たちはこの出来事をちょっとしたハプニングあるいはサプライズくらいにしか捉えていない。楽しそうに笑い喋りながらバスへ乗車する。
「なんか大変なことになったな」
浩一は現状を見て言った。裕貴も同意する。きっと数日したら今日のことを笑いながら話せる。笑い話になるのだと……。軽い気持ちだった。
「だな。せっかく地獄のような山道を登って来たのに殆ど何もできず終わったからな」
浩一と話しているうちにバスに乗る順番が回ってきた。丁度そのタイミングでスマホに着信がくる。発信者は天川麻弥。
「えっ? まじかよ!」
まともなメッセージのやり取りが出来なかったのに、電話をかけてくるなど予想外過ぎる。今すぐにでも電話にでたいたが…………。
「おい! 急げ!」
全員が乗らないとバスは出発出来ない。せっかくの麻弥からの電話なのに、話しをしていては他の人にも迷惑がかかってしまう。
まるでダイヤモンドを太平洋に向かって全力投球するような気分だ。裕貴は渋々バスへ乗った。
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