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暗い山道に加え叩きつけるような土砂降りの雨。バスの運転は自然と慎重になり、ゆっくり山を下っていた。
裕貴はスマホを取り出すと折り返し電話をかけた。
『もしもし?』
麻弥のスマホにかけたので麻弥が電話口にでるのは至極当然のこと。なのに裕貴は麻弥が電話にでたのが奇跡のように思えた。
「さっきは電話に出れなくてゴメン」
電話の向こうで麻弥が大きな深呼吸をしたのが分かった。
『今、バスの中ね?』
流石未来予知の異能力者。お見通しのようだ。
「ああ。よく分かったね。突然の大雨でキャンプが中止になってさ」
麻弥は黙って裕貴の話しを聞いていた。理由は分からないが麻弥の沈黙はあまり良くない感じがする。用事があってかけてきたんじゃないのか?
「あっ! でも麻弥さんが合羽を持って行った方が良いって言ってくれたからあまり濡れなかった。ありがと!」
裕貴のお礼の言葉に対しての麻弥の返事は嗚咽だった。
「な、ちょっと何で泣いてるんだ?」
少し声が大きかったようで視線が裕貴に集まる。隣に座っている浩一にいたっては「女の子を泣かしたぁ!」っと冷やかしの眼だ。
浩一に「うるさい!」っと手で答えていると、麻弥が嗚咽を噛み殺した声で話し始めた。
『ごめんなさい。私がちゃんと“合羽じゃないとダメ”って言っていれば……。レインコートじゃダメって伝えていれば……。ゴメン』
「合羽もレインコートも似たようなものじゃん! 現に雨避けになったし」
『合羽を選ぶかレインコートを選ぶかって選択肢が重要だったの。それが未来を決める鍵の1つ。ゴメン。何を言っているか分からないよね』
麻弥は裕貴が未来予知のことを知っていることを、知らない。だから、伝え方を迷っているようにも思える。
麻弥が言いたいことを分かりやすくゲームで例えるなら“マルチエンディングのゲーム”が適切だろう。いくつものエンディングがあり、どのエンディングになるかを決める選択肢がある。
きっと人生にはその選択肢とエンディングの数が星の数より多くあって、裕貴がレインコートを買ったのは良くないエンディングを決定づける選択肢だった。
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