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2人の会話を聞いていた沙弥は頭を振った。麻弥の成長を感慨深く思っている場合ではない。
麻弥が何故土砂崩れのことを教えてくれなかったか分からないが、このままでいるつもりも毛頭なかった。
「麻弥。そろそろ……」
沙弥の“帰ろう”という呼びかけに麻弥は一瞬不満そうな顔をした。しかし、今の裕貴のことを考えれば長居するべきでないと思い直したようだ。
「ゴメンね、一応今日は平日だから。そろそろ学校に行かなきゃ」
沙弥が立ち上がると麻弥も立ち上がった。
「下澤くん。今は怪我を治すことだけ考えて」
麻弥は“バイバイ”っと小さく手を振りながら伝えた。大勢の人が亡くなったがその殆どは裕貴の同級生。クラスメートや友達も含まれているかもしれない。それに裕貴も死の淵を彷徨うような大怪我をした。麻弥が「気にしたらダメ」っと言っても不可能だろう。
“やはり全て無かったことにしてしまうのが1番良い。”
「2人とも。来てくれてありがとう。また会えて嬉しかった」
もう1度手を振って病室をあとにした。沙弥は病室の扉を後ろ手で閉めると今決めたことを伝える。
「麻弥。私……」
その言葉で麻弥は察した。沙弥が魔法を行使することに麻弥は否定も肯定もしない。ますます沙弥は理解できなくなった。
この時間は麻弥にとって何なのだろう? 望んだ未来なのか? 望んでいない未来なのか?
今、このときまで何を思い、何を叶えるために努力を積み重ねてきたのか?
沙弥には分からない……。
「ねえ。沙弥。沙弥も色々思うとこあるみたいだけど、私もちょっとだけ怒っているんだよ?」
「怒るって何に?」
「下澤くんの未来が歪に変化してる。沙弥、魔法で下澤くんの過去に干渉したでしょ? 今回の件も沙弥が下澤くんに魔法を使ったことが原因」
ここで“全部麻弥のためだ”っと言ってしまえば楽だ。でもそれじゃあ麻弥と裕貴は恋仲にならなくなってしまう。
麻弥には恋人に夢中になってもらって「生きていたい!」っと思ってくれるようにならないとダメなのだ。
「私が下澤くんに魔法を? 麻弥の勘違いだよ。これから始めて使うんだ」
沙弥の瞳に星屑が宿り涙が流れた。いつまで戻ればいい? 前日で良いだろうか?
沙弥がどの時間に干渉するかを決めているとスマホが震える。魔法を中断してメッセージを確認した。
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