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「それでも良いよ! 下澤くんはなんて?」
「さあ?」
「さあってなに? さあって! 沙弥! 焦らさないで教えてよ!」
麻弥の必死な姿にクスクスとこみあげてくる笑いを抑えられない。
「だって、私も知らないから。直接会ってお礼をしたいんだってさ」
麻弥は言葉の意味を噛みしめるように「直接……」と呟いた。存分に言葉の意味を噛み締めたあと麻弥は真顔を取り繕いコホンっと咳払いした。
「ふ、ふーん……。まあ、私は別に良いけど。ところでなんで沙弥にそれを言うの?」
「麻弥を誘うのが恥ずかしいんじゃない」
「なる……ほど?」
わかったような、分からないような微妙な顔だ。裕貴以外に恋をしたことのない麻弥に奥手な男の気持ちを分かれという方が無理かもしれない。
かく言う沙弥も似たようなものなのだが……。
けれど今回は少し違う。裕貴が土砂崩れにあったときの記憶を保有していることは麻弥に隠しておきたい。そのためのでまかせを言ったのだ。
あの土砂崩れで生き残れたのは麻弥のおかげだと裕貴は言っていて、その恩を返したいのだ……とも。
「じゃ、下澤くんに返信しとくよ。麻弥も下澤くんが恋しくて恋しくてたまらないんだって」
「待って! 沙弥。そんなこと誰も言ってないけど……?」
「口で言わなくても目が言ってるのよ」
沙弥はそう言うと麻弥の前でスマホを操作した。針のように鋭く尖った麻弥の視線が沙弥の手に刺さる。
「もうっ! そんなに心配しなくてもちゃんと伝えるから」
「それをしないか心配なの!」
滞りなく沙弥のスマホからメッセージが飛びたった。未来予知の通じない沙弥が送る、裕貴と麻弥の未来を変貌させてしまう未来だ。
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