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5月30日(下澤裕貴)
この日がやってきた。日程調整の結果少し間が空いてしまったが、ようやくだ。
あの日……土砂崩れのあったときから、ずっと引っかかっていたことがある。
「少し早いけど行くかな」
服装は派手なのは着ないので、控えめにしたが地味になり過ぎないようにまとめた。浩一にファッションのレクチャーをして貰った結果だ。
あの土砂が世界を押し潰していったとき不思議な気持ちがあった。
麻弥のことを考えてーー
麻弥の声を聞いてーー
麻弥の笑顔を思い出してーー
幸せにも似たそんな感情を覚えた。いや、きっと土砂崩れに会う前から。それこそ中学生のときからずっと抱いていた感情だ。
裕貴は今までその感情について深く考えなかった。麻弥と沙弥は学校でも有名な双子美少女で、男なら大なり小なり憧れを抱くのもだとーーその程度の些細な気持ちだと…………。
でも、そんなちっぽけな感情が死を目前にして感じるものなのだろうか?
だから、沙弥に言われた通り考えてみることにした。
直接会って、話してみて、この感情が何なのかを見つけようと……。
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