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フードコートは予想以上に混雑していた。もう少し早めにくるべきだっただろうか?
「んー、それじゃあ私、先に席を取ってるよ。麻弥、なんか甘い物が食べたーい」
「…………分かった分かった。なんか適当に買っておくから。沙弥、よろしく」
「ハイハイ」
沙弥がクルリと周りリボンを回転させた。沙弥の背中が人の波の中に消えていくのを見届けると、裕貴は麻弥の横顔を見た。
「さっきの“よろしく”って?」
会話の流れから席取のことだと思ったが、少し違う気がした。なんというか念を押すような言い方だったのだ。
「気にしないで。それより早く選ぼ
う? 下澤くん。私、あのパフェが食べたいけど、良い?」
このフードコートのなかでは少し高めの値段設定になっている。だが、これくらいなら許容範囲内だ。
「ああ。大丈夫。バイト代も出たばかりだし」
裕貴と麻弥はパフェを売っている店の列へ並ぶことにした。そこへ2人の前から3人の男性グループが歩いてくる。彼らは話すことに夢中で麻弥の姿が見えているのか不安だ。
不意に裕貴の脳裏だった男性と衝突した麻弥が尻もちをつく映像が浮かんだ。妙にリアルな映像……。
次の瞬間、麻弥が小さく「きゃ」っと叫んだ。男性にぶつかられ華奢な体は紙切れのように飛ばされてしまう。
「あっ…………」
さっき脳裏に浮かんだ映像が現実世界で再生されている。裕貴は無意識のうちに手を伸ばしていた。伸ばした裕貴の手がよろめいた麻弥の背中を受け止める。
「すんません。いたのに全然気がつかなくて」
ぶつかってきた男が頭を下げて謝罪をした。
「いえいえ! こちらこそボンヤリしていてごめんなさい」
麻弥がそれに応えた。お互いが謝罪してそれ以上問題にならずに済んだ。麻弥にぶつかった男はもう1度頭を下げると友人の隣に並ぶ。
「お前なぁ、目の前にいたんだから気付けよ」
「ほんと、全然見えなかったんだって!」
彼らはそんなやり取りをしながらフードコートの出口へ向かっていく。
「あの下澤くん?」
男たちの会話を聞き、姿を追っていた裕貴を麻弥が見上げていた。上目遣いで恥ずかしそうに頬を染めていた麻弥の破壊力は抜群だ。
「そろそろ離してくれないかな?」
言われて気がついたが、まだ麻弥の背中を抱いたままだ。腕の中の温かさが急激に熱くなる。
「あっ! ご、ゴメン……つい」
「ううん。コッチこそ。支えてくれてありがとう」
裕貴は腕を離して麻弥を開放した。麻弥は胸を抑えながらお礼を言うが、腕に残った感触が強烈過ぎて頭に入ってこない。
細くて、柔らかい……。
「下澤くん?」
「ああ。ゴメン。早く並ぼうか」
「うん!」
パフェの列の最後尾に並んだ。果物か生クリームか……甘い香りが漂ってくる。
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