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麻弥はもじもじとした様子で裕貴の前のパフェを見て、時折裕貴の顔にも視線を送る。
「っと、食べてみる?」
裕貴が聞くと麻弥は俯いた。彼女のピンク色の唇が言葉を言い淀んでモゴモゴと動いている。
「…………うん」
ようやく絞り出した言葉は短く、周囲の雑多な音に消されてしまいそうなくらい小さい。
裕貴はパフェの入った硝子の器を麻弥の前に置く。麻弥はゴクリと唾を飲み込みパフェを凝視する。
ただパフェを食べるだけなのに、異常なまでの緊張感だ。そんな麻弥の耳元へ沙弥は口を近づける。麻弥の髪を沙弥の息が揺らすほどの近さだ。その距離で沙弥は囁く。周囲に声が漏れないように、されど麻弥の耳には焼き付くように何度も、何度も1つの単語を繰り返した。
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい」
沙弥の囁きに麻弥が応戦するが勝敗は既に決している。麻弥の顔は焼けた鉄のように紅く、そして肩はどんどん小さくなっていく。
「もう早く食べないと下澤くんこまってるよ!」
一向に手をつけない麻弥の腕を沙弥が掴む。
「ん? いやまあ、困ってはいないけど……」
「ちょっと沙弥! 下澤くんもこう言ってるから!」
麻弥がどれだけ抵抗しようが沙弥の行動は止まらない。麻弥の腕を力づくで操作してパフェにスプーンを突き刺して掬った。
麻弥のスプーンの上にはパフェが乗っている。的確に裕貴の食べかけの部分を掬いあげて……。
どんなに恥ずかしかろうが、もうあとには引けない。麻弥は思い切って食べた。
「…………美味しい、です」
麻弥はその一言だけどうにか絞り出して力尽きた。裕貴に器を返すと一心不乱に自分の分のパフェを食べた。
裕貴は沙弥の顔をみた。視線がぶつかったあと、麻弥の方をみる。様子がおかしい麻弥についての説明を求めるが「パフェ、食べよう」っとだけ聖母のような表情で言うだけだった。
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