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パフェを食べ終えて帰り道を歩く。道中、無言が続いている。仲違いした訳じゃないのだが、何とも話し難い雰囲気だ。
ーー何か話すべきなのか?
ーー会話しないとつまらないと思われないか?
そんな考えから裕貴は助けを求めて沙弥を見るが、沙弥の腰のリボンが大きく揺れた。裕貴の思いが届く前に沙弥は舞い踊るように歩き出した。余程、気分が良いのが歩く姿から伝わってくる。
そんな沙弥と対称的なのが裕貴の隣を歩く麻弥だ。コンパクトな鞄の持ち手を両手でギュッと握り締めている。やや俯き加減のため目は前髪で隠れているが口角がほんの少しだけ上向きになっている。
会話がしにくい雰囲気でも空気は悪くないーーーーむしろ、裕貴にとっては心地が良いくらいの沈黙だ。
バス停に着いたのが惜しいくらいだ。
「丁度、バス来たみたいだね。あの……本当にありがとう」
バスの到着時間を確認する前に道路を走ってくるのが見えた。
「ううん。私たちの方こそご馳走にしてもらって、ありがとう」
沙弥と麻弥が乗客の列に並ぶ。
「沙弥さんも無理矢理突き合わせて悪かったね」
「イイよイイよ! 私も下澤くんに無茶なお願いしてるし……でも、私が居なくても話しくらいは出来るようにならないとね」
男と2人でいるのは良くない噂が立つから……と麻弥には言ってある。麻弥も2人で出掛けるには抵抗があったのか特別気にする様子もなかった。
「ごもっとも」
返す言葉もない。もう少し話術を勉強していればっと後悔した。相手を楽しませるように努力していれば麻弥が無言になることも、もっと笑顔を見ることも出来ていたはずだ。
「麻弥もね?」
沙弥が麻弥にも言うと、不意をつかれたのかアタフタした。
「う、うるさないなぁ!」
バスが止まり乗客が乗っていく。沙弥と麻弥は声を合わせた。
「下澤くん。今日はありがとう!」
2人は同じ動きで手を振って別れを告げるとバスに乗った。2人は窓を挟んだ向こう側でもう1度手を振るとバスが走り出す。
裕貴も手を姿が見えなくなるまで手を振っていた。バスの行く先には朱い太陽が輝いている。時間的にはそろそろ黄昏が迫ってくるころだ。
でも、寂しく感じているのは夕暮れだからじゃないだろう。裕貴は小さくなったバスを見て帰路に着く。
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