6月8日(天川沙弥)

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6月8日(天川沙弥)

 今週に入り小海高校に凶悪な魔物が襲来した。生徒たちはこの魔物に恐れ慄き、夜も眠れなくなる。  沙弥もその中の1人。睡眠不足で重くなった瞼を擦りながら、英語の教科書を捲る。 「精がでるねー沙弥。たかがテストなのに」  佳子が前の席の椅子に腰掛ける。その手には大きなメロンパンが握られていた。佳子は顔より大きいメロンパンを開封して大きな口でかぶりつく。 「そーゆー佳子はえらく余裕だね。赤点3つで留年って分かってる?」  小海高校は創設されて10年を過ぎたばかりの真新しい学校だ。しかし、勉学においては非常に厳しく高レベルの教育を行っている。その成果はみるみるうちにでて、全国でみても指折りの進学校になった。  「分かってる分かってる。赤点を取らなければ良いだけだって」 「ほんとーに分かってる?」  沙弥の心配を他所に佳子は巨大メロンパンを味わっている。まあ、なんだかんだ言いつつも、今まで経験してきた数多の過去ではかろうじて赤点を回避していた。それこそ紙一重の差で赤点を回避し続けきた……だから、今回もギリギリのラインで回避するような予感はある。  始業のチャイムが鳴り、テストが始まる。メロンパンを食べている緊張感の欠けた1人を除き、生徒の目は真剣そのもの。  刻々と時間は流れる。時計の秒針が進む音と鉛筆の音だけが教室に響いていた。        
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