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テストが終了したのはジャスト12時。テスト期間中は半日なので生徒たちはこれで帰る。もちろん早く帰って遊べということではなく、自宅で自主勉強に励めという学校側の意向。
それを大半の生徒は理解しているが、ごく一部の生徒は理解できていない。その代表が佳子だ。
「沙弥! ご飯食べに行こーー!」
クラスメートの視線が集中した。佳子の声の大きさもあるだろうが、余裕綽々の発言をしたからだ。普段は遊び歩く生徒もテストだけは死物狂いで受けているのに、この大胆不敵な発言。きっとクラスメートは佳子のこと天才と羨んだだろう。でも、それは違うのだ。現状で佳子の危機管理センサーがバグを起こしていることを知っている沙弥だけは、彼女の発言に頭を抱えた。
「明日もテストでしょ? 私は帰って勉強をするから佳子も勉強したら」
麻弥を救うために過去へ戻ってくる度、テストを受けてきたが、この学校のテストは難しい。
「ちぇー……しょうがない。今日は諦めるか」
沙弥は荷物をまとめると佳子と一緒に教室をでた。するとどうだろう。廊下の雰囲気が普段と全然違う。テストと違う緊張感。その原因は廊下を我が物顔で歩く集団だ。
中央には大きなお腹を揺らす男が、俯き怯えきった表情で歩いている。その左右にいるのが背の高い髪を染めた男たちだ。中央の男が逃げないように肩をガッシリと掴んでいた。
「げっ……遠野たち」
彼らを見た瞬間、佳子は教室に引っ込んだ。おっとりした佳子が露骨に嫌悪感を示すのは珍しい。
「知っているの?」
「3組の連中。真ん中にいるのが大和田……なんとか君。両脇にいるのが遠野と菊池」
3組は麻弥のいるクラスだ。
「関係とか人柄は見たまんまだよ」
大和田を苛める遠野と菊池。なんの捻りもない見たまんまの光景らしい。
「先生は知っているの?」
「うーん……知っているとは思うけどこの高校、成績第一だから」
佳子の説明に「あー」っと納得した。この高校は兎にも角にもテストの点数が第一。良い点数を取って良い大学へ進学する生徒が優先される。
「大和田には気の毒だけど卒業まで我慢するか、あの2人より成績が良くなるかケンカでもして負かすか……」
佳子もイジメが良くないことくらいは理解している。けど、どうしようもないことも理解しているし、何より佳子にとっては他人事。否、目を逸した殆どの生徒が他人事。自分は関わりたくないと、見て見ぬフリをしてやり過ごした。
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