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「それに私の魔法は制限があるの。過去に干渉できるとは言っても何でもかんでも出来る訳じゃない。干渉できるのは記憶だけ」 「記憶に干渉?」  「うん。例えば3時間前の下澤くんに『母親にケーキを買うように頼まれた』という記憶を植え付けることができる。もしくはその逆。任意の記憶を消すこともできる」  沙弥は記憶にしか干渉出来ないと不満気な物言いだが、裕貴はこの魔法はかなり強力なものじゃないかと考えた。 「けど、それって人の行動を思い通りに誘導できるってことじゃないか?」  裕貴にケーキを買わせたり、或いはお使いを忘れさせ母親に叱られさせたり……。使い方によってはとんでもないこともできそうだが……。 「そんな便利なものじゃないわ。せいぜい勘違いくらいにしか変えられない。物忘れ程度の綻び。人の行動を誘導するには弱くて脆くて心許ない」  沙弥が起こせるのは細やかな記憶違い程度らしい。魔法を行使する前と後で多少変化があるだろうが大きな流れの変化を生むことはできないようだ。 「でも下澤くんが魔法を信じて、私を信じてくれれば綻びは奇跡に変わる!だから、下澤くん! どうか私の代わりに麻弥を救って!」  沙弥の瞳から涙が溢れる。キラキラ光る宝石のような涙。沙弥の瞳から落ちた美しい涙は光の奔流となって裕貴を飲み込んだ。          
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