6月8日(天川沙弥)

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 少なくとも麻弥の死が回避出来ないものじゃない。それが分かっただけでも大収穫だ。あとはそこへたどり着くだけ。麻弥が『生きたい』と思う未来へ……。 「そっかそっか! 麻弥も卒業出来るかもしれないのかぁ!」  最近は裕貴に麻弥の関係も上手く回りだした。今回こそは麻弥を救えると期待に胸が膨らむ。 「なんなの、さっきからバカにして! 私だって卒業くらいできるから」 「だって、未来予知ばっかで生きてきたから、まともに勉強してないでしょう? 教えてあげようか?」 「もう必要ないから! けど……一緒に勉強……する」  沙弥が「うん!」と返事をする。麻弥はチャーハンの食器を手早く片付けて、冷たいジュースを代わりに用意した。 「明日日本史だっけ? あと現国」  鞄を持つと麻弥に翌日の教科を確認する。教科書とノートを部屋から取ってくるからだ。 「そうだよ」 「そっか。文系か。一層のこと、下澤くんに教えてもらう? 文陽高校は文系に強いらしいから」  冗談半分で勉強会を提案してみた。いつもみたいに赤い顔で、だらしなく頬を緩ませるかと思ったが、麻弥がみせたのは違う姿だ。  頬を真っ赤にしているあたり、勉強会に憧れはあるよう。しかし、いつもみたいにニヤけず、ピシっと否定した。 「ダメだよ。沙弥。下澤くんに迷惑がかかるから」 「迷惑って思うような人じゃないと思うけど?」  裕貴も麻弥と勉強出来るとなれば喜ぶのではないかと思う。 「下澤くんも来週からテスト期間に入るから。私たちと違って魔法に頼れないんだから。だから邪魔になるようなことしちゃダメ!」  珍しく麻弥が魔法を頼りにせず、自力でテストに望んだ理由がなんとなく分かった。自分の力だけでテストを受ける裕貴に触発されたようだ。 「んー。じゃあさ、テスト終わったら下澤くんにご飯を作ってあげたら?」  リビングを出るとき麻弥の背中に投げかけた。   「はァァあああ!? な、何でそうなるの!」  この提案に麻弥が勢いよく振り返った。 「ご褒美的なものがあった方がやる気でるでしょ?」 「その理屈は分かるけども! 何で私が作る側?」 「料理の味付け変えたの下澤くんのためでしょ? 食べてもらわなきゃ!」 「だ、誰も下澤くん好みに変えたなんて言ってないけどー!」 「男の胃袋は掴まないと、ね?」  麻弥の料理の腕はかなりのものだ。披露しないのはもったいないし、何より裕貴のために努力しているのだから本人に食べさせなくては…………。 「じゃ、下澤くんに伝えとくよ」 「待って……まだ、そんなに上手くないから、まだダメ…………」  まだ腕に自信がないようだ。モジモジと訴えるが沙弥はそれを認める気はない。「なら、さっさと本番までに練習しなさいな」っと高笑いしてリビングをあとにした。
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