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6月24日(天川沙弥)
6月も終盤に入り本格的に暑くなってきた。ほとんどの生徒が制服を夏服に衣替えをしている。湿気を含んだ温い風に不快感を感じながら、沙弥は校舎を歩いていた。
肘にぶら下がった鞄の中は体操服が入っている。
「こんな暑いのになんで走らないといけないのー!」
一緒に歩いていた佳子が廊下の窓から見える太陽に恨みの視線を送る。
「どうかーん! マラソンなんて疲れるだけー!」
沙弥は億劫な気持ちで更衣室のドアを開いた。既に他のクラスメイトが着替えを始めている。沙弥と佳子は空いているロッカーを開いた。セーラー服が汗でくっつき脱ぎにくい。着替えにモタついていると窓の外から声が聞こえてきた。
“おいおい! こんだけじゃあ全然足りねーよ”
“もっと持って来いよ? お前の親、有名なアーティストなんだろ?”
“そ……んなぁ……これ以上は無理だよ”
「まーた、やってるよー」
佳子は着替えを終えると呆れてロッカーを閉めた。クラスメイトの話し声や布の擦れる音に混ざり、殴る音や蹴る音…………それに悲鳴と呻き声が更衣室の中へ聞こえてくる。
“金がねーなら親の財布からとってこいよ!”
“そんなこと出来ない”
“なら写真でも良いんだぜ? どっかのクラスの女子が着替えてんだ”
“ああ! それ良いな! 着替えの写真撮ってくれば勘弁してやるよ”
今まで見て見ぬ振りをしていた人間に緊張感がはしる。もう対岸の火事で済まなくなった。
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