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遠野と菊池が泥を踏む。小石がジャリジャリ音を鳴らす。
「さて、まずはどうしてやるか」
菊池は沙弥を掴もうと手を伸した。太陽の光が中指のドクロの指輪を照らす。
だが、菊池の腕は沙弥に届かなかった。遠野が寸前で菊池の腕を掴み、憤怒の形相をしている。
「汚え手で触ろうとしてんじゃねえよ! この愚図が!」
次の瞬間、菊池の頬に遠野の拳がめりこんだ。仲間からの突然の攻撃に菊池は踏ん張りがきかず仰向けに倒れる。何が起こったのか理解出来ない菊池だが、遠野も同じような顔をして己の拳を見ていた。
「アレ……俺、なんで?」
何故、襲おうとしていた相手を庇い、友人を殴ってしまったのか分からない。
「すまん、本当にそんなつもりじゃなくて」
菊池に駆け寄る。しかし、菊池は上半身を起こすと遠野の胸ぐらを掴んだ。
「ふざけんじゃねぇぞ! 本気で殴りやがって! 何が『そんなつもりじゃない』だ!」
「信じてくれ!」
菊池の答えは頭突きだった。遠野が鼻血を撒き散らした。
「信じるわけねーだろ!」
2人のケンカが始まった。
ケンカの原因は沙弥が2人を仲違いするように魔法をかけたから。過去の記憶に干渉し、自分と遠野の関係を親密にし、逆に菊池と遠野の関係を悪化させた。過去干渉の魔法の効力は大したことないし、持続もしない。けれど、これくらいのことなら容易にやってのけれる。
“おい! お前ら何をやってる!”
背後から聞こえてきたのは教師の声だ。佳子が連れてきてくれたようだ。
沙弥は「んっ!」と伸びをして太陽に目を細めた。
「……暑い」
このあと待っているのは不良より厄介なマラソンだ。コレばかりは魔法を使っても逃れられない。
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