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中学卒業
光の中に飲み込まれた裕貴は、沙弥の頬に涙の跡があったのを思い出した。
悲しくて泣いただけじゃなく、今みたいに魔法を行使したときの跡。きっと何回も挑戦したから、あんなにハッキリと跡が残っていたのだろう。
裕貴の視界が次第に鮮明になってきた。それに併せ先程まで車のエンジン音しか聞こえていなかったのが、ザワザワとはしゃぐ人の声に入れ代わり次第に明確になる。
「卒業おめでとう!」
確かに聞こえた。時期外れの祝福の言葉。裕貴の目の前には中学校の校門。卒業を祝う桜……そして、美しい双子の姉妹の背中。
「過去へ戻ってきた? タイムスリップ、いやタイムリープか? まさか本当に?」
目の前に広がる光景はあの日、中学の卒業式の日の光景だ。麻弥から「卒業おめでとう」と祝福してもらったあと。丁度二人の背中を見送ってるところだ。
色々と思うところはあるが、今の裕貴の心は喜びと安堵に満ちていた。
……生きている。麻弥さんが生きている。良かった……!
もしかしたら麻弥が死んだというのは間違いで白昼夢でも見ていたのかもしれない。そう思いたかったが視界から消える寸前、沙弥が振り返り目が合った。
遠くて不確かだが沙弥は口パクで言った……「麻弥を助けて」
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