6月24日(天川麻弥)

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 最速で家に帰るルートは脳内シミュレート済みだ。今朝行った未来予知の結果を併せても、間違いない。どの道を通れば信号に捕まらないかまで計算した完璧なルート。  欲を言うなら昼間、もう1度魔法を使いたかった。未来予知は遠い未来ほど可能性が多く、近い未来ほど可能性は絞られる。  使わなかった理由は魔法を使うと涙が出てしまうという弊害があるからだ。コレは沙弥の過去干渉も同じ。ただ、泣き顔は他人に見られたくない。家族と特別な人だけにしか見せたくなかった。  シミュレート通りのルートで家に着いた。結果は予定通り。だが、麻弥にとって本当の戦いはコレから。裕貴を招待したのは19時。しかし、彼は予定に遅れないように20分前には天川家に到着する。つまり麻弥に残された時間は約2時間。その間に最高の料理を作らねばならない。  まず向かうのはリビング、正確にはリビングダイニングキッチンになるが。閉ざされた空間で淀んだ空気を入れ替えるため、窓を全開にする。併せてエアコンの除湿機能も動かす。それと消臭剤も蒔いておく。  次は米だ。麻弥はカウンターの下にある米びつの前に屈んだ。 「2合で良いかな……うーん、でも下澤くん男の子だし、白米が好きって言ってたし、たくさん食べてもらいたいし……3合! よし、3合炊いちゃおっと! 」  因みに天川家の食事では1回で2合炊く。父と母の4人家族で、家事全般は麻弥と沙弥が当番で行っているからおのずと、麻弥、沙弥基準でお米を炊くことになる。たとえ、早朝から深夜まで身を粉にして働いている父親がいたとしても、休日に重い米を買いに行かされるのが父親だったとしてもお米を炊く基準は変わらない。  米粒は小さいし、3合分ともなれば粒の数は多い。それでもこの中の何割かを裕貴が食べるのだ。手を抜くまいっと丹精に研いだ。 「これで……よしっ!」  炊飯器にセットした。裕貴が「美味しい!」っと喜んでくれる姿を想像して頬を緩ませる。  だが、待っていたのはそんな幸せな未来じゃなかった。  突如、背後から口を塞がれた。布を当てられ悲鳴が声にならない。 「ん! んん!」  何が起こったのか理解が追いつかない。ただ、体は大きく腕は太い。 ーー男だ。 「迎えに来たよ、沙弥」  耳元に近づけられた口からは炭酸飲料のニオイがした。  そして、麻弥が最後に見たのはバチバチと青白い稲妻を光らせるスタンガンだった。
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