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6月24日(下澤裕貴)
裕貴の家から天川家へ行くには色々なルートがある。電車で一駅だし、バスでも行ける。自転車でも行ける距離だが麻弥から徒歩で来るように指定された。
曰く、沢山食べて欲しいから運動をしてお腹を空かせておいて欲しいとの事だ。
「それにしても、いきなり手料理だなんて」
沙弥から聞いたのは“麻弥が料理の練習しているから味見をして欲しい”だった。
理由はどうであれ好きな人の手料理を食べられるのは幸せなことだ。約束の時間に遅れないように家をでる。街は夕闇に包まれていて、家路につく大勢の人とすれ違った。
サラリーマンやOL、買い物袋を引っさげた主婦に学生もいる。
色んな人とすれ違う。街並みも歩いているとどんどん変わる。その中で見つけたのは小さなケーキ屋だ。フラリと寄りケーキを購入した。
暫く歩くと白い大きな橋が見えて来た。川を挟んだ向かいには木造の洋館の屋根も見えていた。橋を渡ると洋館の全貌が鮮明に見えてくる。
川沿いに歩くと人通りも減ってきた。この時間ということもありすれ違う人の顔は疲労が蓄積した色をしている。その中には麻弥たちと同じ小海高校の生徒もいた。
大きな体で大きなスーツケースを押している。しかし、それ以上に印象的なのはその顔だ。包帯と絆創膏で覆われている。階段から落ちて顔面をぶつけたのだろうか?
「っと、急がないと約束に遅れる!」
フランケンシュタインに気を引かれている場合じゃない。天川家にはもう少し歩く必要があるし、手にはケーキも有るので走るのもままならない。裕貴は歩き出した。
ーー下澤くん!
麻弥に呼ばれた気がした。こんなところにいるはずがないのに、だ。
「空耳、だよな」
裕貴は自嘲気味に笑う。麻弥の声が幻聴で聴こえるとは……。どうやら自分で思っている以上に惚れているようだ。
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