11人が本棚に入れています
本棚に追加
「麻弥、誘拐されちゃったの?」
沙弥は「違う」と言って欲しいようだ。でも出かけた様子はないし、庭には不自然な足跡。
「分からない。でもその可能性は高いと思う」
食事の準備中に忽然と姿を消してしまったのだ。誘拐じゃなければ神隠しくらいしか思い浮かばない。
「じ、じゃあこの溝はスーツケース?」
沙弥はボソッと呟いた。それを聞き疑問に感じる。
「何でスーツケース?」
「この前ドラマでやっていたんだよ。死体をスーツケースに入れて運んだって」
ドラマで得た知識だが、あながち間違っていないかもしれない。4本の溝はキャスターの跡。それにスーツケースなら怪しまれず運べる。
「ねぇ……小海高校って今日修学旅行?」
本当にスーツケースを使ったのだとしたら、気になる出来事があった。
「いや、違うけど……? どうしたの?」
「じゃ部活の合宿とかは?」
「小海高校は勉強中心。部活の合宿免許は夏休みとか長期休暇のときだけ」
それを聞き裕貴の中の引っかかっていたものは確信に変わった。
「アイツだ!」
「えっ?」
「来る途中、すれ違ったんだよ! 大きなスーツケースを運ぶ小海高校の生徒と!」
来る途中にすれ違ったということは、麻弥の家の方角から来たということ。
「助けに行かないと! 沙弥さんはここで待ってて! 戸締りも忘れないように」
背後で沙弥が「証拠は?」っと言っているのが聞こえた。確かに証拠はない。憶測だ。でもこの勘が間違っているという考えは、まるでなかった。
ーー下澤くん!
あの男とすれ違ったときに聞こえた麻弥の声を思い出す。空耳だと思ったが、今は違う。今は助けを求めていたのだ……そうとしか思えなくなった。
麻弥の家を飛び出した裕貴は、全力で走り出した。
最初のコメントを投稿しよう!