6月24日(下澤裕貴)

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「麻弥、誘拐されちゃったの?」  沙弥は「違う」と言って欲しいようだ。でも出かけた様子はないし、庭には不自然な足跡。 「分からない。でもその可能性は高いと思う」  食事の準備中に忽然と姿を消してしまったのだ。誘拐じゃなければ神隠しくらいしか思い浮かばない。 「じ、じゃあこの溝はスーツケース?」  沙弥はボソッと呟いた。それを聞き疑問に感じる。 「何でスーツケース?」 「この前ドラマでやっていたんだよ。死体をスーツケースに入れて運んだって」  ドラマで得た知識だが、あながち間違っていないかもしれない。4本の溝はキャスターの跡。それにスーツケースなら怪しまれず運べる。 「ねぇ……小海高校って今日修学旅行?」  本当にスーツケースを使ったのだとしたら、気になる出来事があった。 「いや、違うけど……? どうしたの?」 「じゃ部活の合宿とかは?」 「小海高校は勉強中心。部活の合宿免許は夏休みとか長期休暇のときだけ」  それを聞き裕貴の中の引っかかっていたものは確信に変わった。 「アイツだ!」 「えっ?」 「来る途中、すれ違ったんだよ! 大きなスーツケースを運ぶ小海高校の生徒と!」  来る途中にすれ違ったということは、麻弥の家の方角から来たということ。 「助けに行かないと! 沙弥さんはここで待ってて! 戸締りも忘れないように」  背後で沙弥が「証拠は?」っと言っているのが聞こえた。確かに証拠はない。憶測だ。でもこの勘が間違っているという考えは、まるでなかった。 ーー下澤くん!  あの男とすれ違ったときに聞こえた麻弥の声を思い出す。空耳だと思ったが、今は違う。今は助けを求めていたのだ……そうとしか思えなくなった。  麻弥の家を飛び出した裕貴は、全力で走り出した。
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