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大和田は転がっていた腕を拾いあげると、切断された肘の部分を見せた。
「怖がらなくていい。全部、作り物だから」
その言葉の意味は切断面を見て、直ぐに分かった。切り口は牛肉や鶏肉のような繊維状ではなく、ゴムのような断面……そう、丁度シリコン樹脂のような感じだ。
「驚いた? 僕のパパはこうゆう人形……ホラー映画とかお化け屋敷とかに使う人形を専門に作って世界中に売っているんだ」
素人目で見ると本物と間違えてしまうくらいリアルな出来だ。ここまで精巧な造形ならその手の依頼が沢山来ているだろうと想像できる。
「ここはパパのアトリエの1つ。心配しなくても今パパは別のアトリエに籠もっているから2人きりだよ」
大和田は麻弥の背後にまわると猿轡を解いた。口の中にあった異物が除去され呼吸が幾分か楽になる。
「一応、伝えておくけどこの部屋は地下だし、うるさいと集中できないからって建物全体に防音対策してあるから騒いでも無駄だよ」
確かに大和田の声以外、音が聞こえない。現代日本で生きていれば、車や音楽のような人工的な音若しくは風や生き物の鳴き声が聞こえてきて無音が続くことなどありえない。防音対策してあるというのは本当だろう。
麻弥は唇をギュッと噛み、恐怖心を押さえつけて大和田を睨む。
「どうしてこんなことをするの?」
「どうしてって? 沙弥が望んだんだろ?」
麻弥は大和田の表情を見て目を疑った。大和田は本当に理由が分からないって顔をしている。
「昼間。遠野くんや菊池くんに暴力を振るわれている僕を助けてくれたじゃないか。あんなに怖い人を相手に、身を挺して…………。それ、僕のことを愛しているからだろ? 僕も沙弥を愛してる! だから、今日は迎えにきたんだ。一緒に暮らすために」
道理でさっきから「沙弥」と呼ぶわけだ。大和田の本当の狙いは沙弥で、麻弥は間違えて囚われた。
ーーそれにしても……。
麻弥はクスリと笑った。それを見て大和田は怪訝な顔になる。
「何がおかしいんだ?」
「薄っぺらい愛だなーって思っただけよ」
瞬間大和田の表情が変わった。鋭い目つきで麻弥を睨むと右手を振り上げた。
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