11人が本棚に入れています
本棚に追加
腕を拘束された麻弥は魔女の人形の二の舞いとなった。木の柱から垂れた鎖が拘束具に接続され、ハンドルが回される。肘はピンと伸び体が浮き始めて爪先がかろうじて床に着くくらいで固定された。
「痛……」
拘束具が手首に食い込む。人形用で人間用に作られたものじゃない。痛みを軽減させる配慮など一切なく木材の角がじわりじわりと肌を痛めつける。
「いい格好になったね」
麻弥の背後に回った大和田は後ろから抱き締める。大和田の口が麻弥の耳元で呟く。
「やめて……」
麻弥は体をくねらせて大和田の抱擁から抜け出そうとする。しかし逆に抱擁する力は強くなり、大和田の手がセーラー服の中に侵入してきた。
「いや、やめてっ!」
「夫婦になるんだ。これくらいどうってことないだろ」
必死に抵抗し暴れていると左胸のポケットから何が落ちた。生徒手帳だ。これを見られたら、沙弥じゃないとバレてしまう。麻弥は踏んで隠そうとする。しかし、大和田も生徒手帳が落ちたのを見ていた。
麻弥の細い足首に大和田の指が絡みつく。大きな大和田の手は麻弥の脚を楽々と持ち上げてしまう。
「だ、だめ! それは……!」
大和田に生徒手帳が盗られた。
「生徒手帳?」
中身を見た大和田は手帳を投げ捨てる。怒りで吊り上がった目で麻弥を睨むと両手で麻弥の首を掴んだ。
「よくもっ! よくも騙したなっ!」
「うっ……うっ……」
麻弥の首を大和田は力任せにしめつける。制止する理性はなく華奢な首には過分な力が加わる。呼吸も血流も止まり爪が食い込んだ皮膚は裂け出血した。
「僕が好きなのは沙弥だ! それを知っていて騙すなんて!」
視界の中で大和田が叫んでいる。でも、もう麻弥の意識は風前の灯火。夢の中のような感覚だ。
「許さない! お前も母さんみたいに勝手な女だ! 沙弥だけが違う! 沙弥だけが僕を助けてくれた! 沙弥の愛だけが本物だ!」
痛くも苦しくもないのは体がもう死んでしまったのだろう。肉体と魂が剥離する刹那、麻弥は未来予知をした。脳だけが生きているのか、それとも魂なのか、今の状態は麻弥本人にも判別がつかない。けど、肉体から解き放たれたお陰で集中力は今までに経験したことないくらい増していて未来の映像が浮かぶ。
麻弥が見た未来は翌日の日付。殺人容疑で逮捕される大和田の姿がニュースになっている。
“良かった。これなら沙弥は……”
大和田は沙弥に狂気じみた執着をみせている。沙弥に危害を及ぼすのじゃないかと心配だったが、杞憂で終わりそうだ。
“愛してるよ、沙弥、裕貴くん”
麻弥の最後の言葉は誰にも聞き届かれなかった。
最初のコメントを投稿しよう!