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「そういや、成績が落ちてきたよな」
学校帰りの電車のなか、隣に座った榎本修が突然言った。
「良いんだよ。成績くらい。今大切なのはネトゲーの二周年イベだ」
余計なお世話だっと野上晴臣は一蹴した。
テストの結果が芳しくないのは自覚している。前回の期末テストも点数が一気に落ちて、高得点者上位百名まで張り出される順位表からも弾き出されてしまった。成績第一のこの学校でそれは“落ちこぼれ”のレッテルが貼られたのと同じ。学校から見限られたようなものだ。
それでも、ゲームがしたい。
「晴臣のことじゃねーよ。つか、お前は自業自得だから気に掛けるつもりもねぇ」
「その通りだが……。冷たすぎね?」
「俺が言ってるのは宮内琉璃のことだ。学校一の有名人」
榎本が斜向かいの座席に目線を送る。そこには件の宮内琉璃が座っていた。小舟のように電車の揺れ合わせて体が右へ、左へ揺れている。睡魔に負けたようだ。
「ついでに言えば晴臣の幼なじみ」
何を期待しているのか想像のつく榎本ニヤリと笑った顔。
「それ、誰にも言うなよ? それと榎本が期待しているようなことは一切ないからな」
琉璃と幼馴染だというのを隠しているのは彼女が遠い存在だからだ。容姿端麗、頭脳明晰オマケに父親が社長をしていて正真正銘のお嬢様。見た目も成績も中の下、普通のサラリーマンの息子とは月とスッポン。
子供のころはよく遊んだが、道端の石ころのような自分と宝石のように特別な琉璃、その差を感じ始めてから次第に距離ができた。小学校から中学校へそして中学校の卒業が間近に迫り、大人に近づくにつれつれ琉璃の輝きは増していった。しかし、それがかえって劣等感を晴臣に与え、高校進学を機に完全な溝を作ってしまった。
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