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「魔法で飛ぶとすぐお腹減るんだよ。普通の魔法使ってるときはそんなことないんだけど、やっぱり魔力の消費が激しいのかな」
「んー。リディヤって飛ぶときだけ魔法の使い方が違うんじゃない?魔法基礎学で理論入れて、自分の魔法に無駄がないか確かめてみたら…」
「いやぁ、飛ぶのは別腹っていうか、変に知識を入れて魔法使おうとしたら、飛べなくなりそうな気がする。私、そんなに勉強しない方が魔法上手くなるんじゃない?」
「なんのためにマギ専いるんだばか野郎。やめてしまえ」
半目でぼやくクロエを尻目に、リディヤは笑みで答えた。
『帝国魔法技術養成専門学校』通称『マギ専』は、かつて一帯を統治していた領主の居城を改修して作られた。元々地方領主の屋敷として十分な広さを持っていた城は、専門学校として使われることが決まった際に、内側と外側から何重にも魔法をかけられ、その大きさを更に増した。特に、室内で魔法が使える教室と無数の研究室、全ての生徒たちを収容できる寮を作ろうとして内部に魔法を張り巡らせた結果、マギ専は魔法使いの学び舎にふさわしい、矛盾と理不尽を内包する空間へと変貌した。
まず、外観から見た姿と、実際に中で歩いてみるのでは広さが全く違うのだ。現に、外から見たマギ専校舎は地上4階しかないにも関わらず、中に入ると地上6階まである上に、地下空間まで付いている。
更に、魔法同士が作用し合って新しい魔法が生まれたのか、校舎が勝手に魔法を使い出すような現象まで現れている。具体的には、備品が好き勝手に置き場所を動くとか、2階へ上がる階段を登っていたはずが、気が付いたら3階まで行ってしまっていたとかという、迷惑千万な現象が日常的に起こるのだ。
クロエも入学したばかりの頃は大いに手を焼いたが、あまりに頻繁に起きるため、ついに『サプライズってさぁ、何されるか分からなくても何か来るって読まれてたら、かえって期待はずれだよね』とぼやいたところ、校舎にかかってる魔法の心が折れ、それ以降、クロエが被害に遭うことは少なくなっている。
二人は自分たちの寮に向かって歩く。石造りのタイルが敷かれた廊下は磨き上げられて朝日を反射し、学び舎には不釣り合いな豪奢な雰囲気を醸し出している。時々タイルの中の一枚が浮き上がり、高速に回転しながら生徒の方へ飛んでいくのだが、狙われた者は杖を振って撃ち落とす。
かつて装飾として廊下を彩っていたであろう、人の肩くらいの高さがある壺は、クロエ達が横を通ると壺口を唇のように歪めて、下品な挨拶を飛ばしてくる。
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