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「久しぶりに変なのに絡まれた……何だったんだアレ」
シャワーを浴び終えた二人が、食堂に入ってきた頃には、辺りは朝食を求める生徒が溢れていた。マギ専の食堂は全ての生徒と教員が座っても、まだまだ余裕があるくらい広い。かつてはここで、館の主が賓客など招いて会食が行われていたのだろうが、魔法で無理やり押し広げた結果、豪華な食卓が果てしなく続き、そこらじゅうで生徒達が料理を片手に授業の内容を書き写したり、魔法の構造について主張し合うといった、静謐さと雑多さが混ぜ合わされたような雰囲気を醸し出していた。
リディヤとクロエも、食堂に流れ込んでくる他の生徒の例に漏れず空いてる席につく。すると、食堂の壁際、端のテーブルに重ねて積み上げられていたメニューが、音もなく飛んできて、二人の目の前に滑り込んだ。料理名を指差すとメニューは元いた場所に戻っていき、それと入れ替わるように料理が飛んでくる。
大ぶりのサンドイッチを3つに、果物数種類を乗せた大皿が置かれると、リディヤは炒めた肉を挟んだサンドイッチを掴んだ。
「『お喋り壺男爵』かあ。名前は知ってたけど、あんなにグイグイ来られたの初めてだったね。クロエ仲良くなってたじゃん?」
「おいやめろ」
適当なこと言いやがって、とテーブルの向かい側に座るリディヤを睨む。ところが睨まれた方がお構いなしにサンドイッチと格闘しているので、クロエは視線を手元に落とした。
目の前には、鮮やかなオレンジ色の液体が並々と注がれたポタージュ皿とパンが置かれている。液体の中をスプーンで探ると粘りを帯びた麦粒が浮き上がり、湯気と共に甘い香りが立ち上る。クロエが選んだ朝食、眠り南瓜のリゾットは、濃い目の塩味と共に強い甘味を味わえる、食堂でも密かな人気を持つメニューである。
体が暖まる上にかなり腹持ちもいいので、寝食を忘れて加工室に入り浸ることが多いクロエは、しばしばこれを腹に詰めこんでいる。ひとすくいして口に入れると、粒の食感が残っている麦と小さく刻まれた肉、それをまとめるチーズの塩気と眠り南瓜の甘味が口いっぱいに広がる。そして、空気に触れていなかった部分は驚くほど熱が残っており、慌てて舌の上で転がした。
「ふ、あ、ふぁ、く、そ、それで、は、今日、は、放課後、何す、する予定?」
リディヤは口いっぱいに頬張っていたパンを咀嚼しながら、生魚の切り身とチーズが挟まっている2つ目に手を伸ばす。
「ひょうは、ひこ、飛行系の魔法を練習ふる予定だけだったよ。……先生達に飛んでるところ見てもらえば、単位に足してくれるし」
「くそう、才能め」
「クロエは?」
「私……昨日作った杖を試したいな。材料も少なくなってきたし、一度潜っておきたい」
「あ、それ私も一緒に行っていい?」
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