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paranoid love
美優は程なく戻ってきた。あぁ、なんだ、僕が心配することなんてなかったんだ……ん? なんだよ、そいつ? なんで一緒なんだよ……!?
『ほら、これここだよね? ていうか、なんでわたし映ってんの!?』
『し、知らないけど……けど、ここはヤバいって、早く出よう! たぶんこの部屋、ずっとどこかから撮られてる!』
美優は、男を連れて戻ってきた。
ふたりはまるで恋人同士みたいに身を寄せ合って立っている。覗いているのは、美優のスマホ?
しかも美優の隣で知ったようなことを言いながらあたふたしてみせているのは、前の職場で美優を退職に追い込んだセクハラ店長だったのだ。なんで、なんでそんな隣で、そんな肩並べて……!?
ありえないよ、こんなの……忘れちゃったのか、美優? そいつといたら危ないんだってば! ……怖いけど、駄目だ、助けにいかないと、駄目だ!
このままじゃ、そいつのいいようされる!
僕は勇気を振り絞って、天井の板を開けて美優の部屋に入った。
「み、み、美優から、離れろ!」
「えっ、えっ、え、なんで、なんで!?」
「嘘だろ、なんだよアンタ! 美優にはもう近寄らないって、」
「うるさい! 美優は僕が守るんだ、あんた、なんのつもりだよ?」
覚えてるよ、あのとき、僕が美優を守ろうとしたら、こいつは卑劣にも警察を呼びつけたんだ。そのせいで僕が注意されて、近寄ったら逮捕されるとかいう話になった。
でも間違いだった、警察なんかに従って同居だけに留めてしまっていたから、こんなやつがまた近寄れるようになってしまったんだ! なんてことだ、せっかく職場を変えて離れられたはずなのに!
「出ていけよ、そんなに近寄ってベタベタ触って、なんのつもり、」
「関係ないでしょ、この人はわたしの彼氏なの! あんたこそもうやめてよ、こっち来ないで! また警察呼ぶよ!?」
何を言ってるんだ、美優?
この男にあることないこと吹き込まれたのか? 青ざめた顔で僕を見る目付きは、まるで別人だった。
酷いよ、そんな目をするなんて……。僕たちは愛し合っていただろ、美優が寝ている間も、たっぷりと。
だから、何があったって離れたりしないんだ、わかるだろ? こないだ検査薬使ったら陽性だったんだよ、美優はまだ見てなかったよね、写真に撮ったから見せてあげるよ。
なぁ、美優、美優。僕さ、お腹の子が産まれたらもっとちゃんとはたらいて、
「――――――っ!!!」
「ぇ、」
突然駆け寄ってきた美優を抱き締めようとしたら、うまくできなかった。
あれ、お腹が、あれ?
冷たくて、熱くて、痛くて、寒くて、暗くて、熱くて、眠くて、あれ、なんだ、これ? 遠くであのセクハラ店長が『美優、何してんだよ!』と叫んでるのが聞こえる。
身体が倒れた気がする。
背中が更に数回、熱くなる。
ふふ、どうしたんだろうね。
瞼がとても重かった。
身体も、動かなくて。
けど、久しぶりに美優の顔をまっすぐ見られたな。やっぱり、可愛いなぁ。こんな彼女の姿を配信できるなんて、幸せ者だよ、僕は……。
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