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「そんな日にこんな手紙よこすなんてさぁ……なんかタイミング図ってる感じじゃね?」
「大袈裟だなぁ」
私は、慎のありえない推測にため息をつく。すると、恵が凛とした声で「小春」と私の名を呼んだ。
「慎の考えすぎだと思うけど……用心にこしたことないよ。気をつけて」
「……うん」
まっすぐ見つめる恵の眼さしが私を素直にさせる。
「つか、おまえの好きな奴ってだれ?」
一番指摘されたくないことを慎が再度つっこんでくる。
「だから、そんな人いません!」
「ホントかよ? 今日はなんてったってエイプリルフールだからな」
「もう、しつこいなぁ。いないってば」
口角をあげて意地悪く笑う慎に冷たい視線を送って、私はその場をごまかした。
四月一日。エイプリルフール。自分の誕生日。私は、毎年ウソをつく。
四月一日が嫌い。自分の誕生日が嫌い。慎の誕生日でもあるから、そんなことは口には出さないけれど、誕生日を祝いながら、ふと曇りそうになる表情をウソの笑顔で上ぬりする。
私の視界に今日届いた手紙が入った。なんとなく手にとり、もう一度見返す。
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