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「ここは、音楽室。ピアノを練習するところ」
自分が『少しずつ』といったのだから、有言実行でお願いします!
「さ、練習しよう!」
「ちぇ……わかったよ」
毅然とした態度でうながすと、諦めのため息ついて、恵はピアノに向かって座り直した。私も姿勢を正してピアノを弾く体勢に入る。
いつものルーティングで、ゆっくりと目をつむった。そして、深呼吸をした瞬間
「――ッ!」
チュッと不意打ちのリップ音に、身体が飛びあがった。
「恵!!」
名を呼んだ直後、恵はアハハと笑いながらピアノを弾き始めた。
ころころと転がるように奏で始められた喧嘩バージョンの『子犬のワルツ』
「もう! 恵の意地悪!」
真っ赤な顔ですねたって、恵はお構いなしでピアノを弾き続ける。
中庭の広場から、ブラバンの管楽器がチューニングしてる音。グランドからスポーツ部員のランニングの掛け声。
廊下からは、女子がきゃいきゃいと盛りあがっている笑い声。
そして、隣には大好きな恵の音。
学校中の音の中から、ピアノの音だけに耳をとぎすませて。
「ほら、小春も一緒に」
「しょうがないなぁ」
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