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楽しそうに笑う恵につられて、すねていた気持ちも吹き飛び、自然と笑顔になる。 鍵盤に指をすべらせると、暗黙の了解で主旋律を私が弾いて、恵がその隣でアレンジを加えながら音を重ねる。 「ねえ、次、なに弾く?」 「だから、伴奏の練習は?」 『子犬』を弾き終わっても、まだ脱線しようとする恵に呆れ顔。 「今日は特別!」 そういって、勝手にまたショパンを弾き始めた。今度は、ワルツ第一番変ホ長調作品『華麗なる大円舞曲』 「うわ~! 懐かしい!」 幼い頃、発表会で一緒に連弾した曲。恵の思惑通り、私は懐かしいショパンの旋律に心惹かれて、恵の音に自分の音を重ねてゆく。 華麗なステップで踊るように、軽やかに二人の指先が鍵盤の上を踊る。壁に飾ってあるショパンも上機嫌に見えてくる。 二人の呼吸が合わさり、溶け合う音。外から聞こえる音は集中する意識に遮断されて、一心同体となった旋律が音楽室に響き渡る。 鮮やかな音の花々が満開に咲き誇り、だれにも邪魔されない二人だけの世界に心満たされてゆく。 これからもずっと、私と恵は隣同士。 * END *
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