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終わる
28日、夜10時半を過ぎた頃だろうか。
家事が一段落ついてTVを観ていた時、電話が鳴った。
美代子からだ。
想像はついた。
病院から至急来るようにと連絡があった。
今から向かうから一緒に来て。
と美代子は言ってきた。
いよいよ危篤の状態だ。
この日は土曜日だった。
昼間は娘の学校の土曜参観で音楽会が行われていた。
午前中は鍵盤ハーモニカを奏でる娘の勇姿を見に行き、昼に帰宅した。
その後、夕方から夜にかけて仲間内の親子で集まりがあった。
皆で料理を持ち込み、カレーを作り、充実した一日を終えようとしていた矢先の電話だった。
娘を連れて行ける訳でもなく、かと言って子供達を家に残す訳にもいかず、すでに寝ていた夫を起こし事情を話して息子だけを連れ、美代子と病院へ向かうことにした。
ベッドに横たわる裕一は、血中酸素濃度が明らかに低下し、心臓の脈拍が弱く跳ねている。
時折心臓が止まり、また動く。
体はパンパンに浮腫んでいる。
「耳はちゃんと聞こえているので、 沢山話しかけてあげてくださいね」
看護師が教えてくれた。
何度も声をかける。
いよいよ看取りの段階に入り、看護師より娘の入室を許された。
すぐに自宅に電話し、夫を叩き起す形で夫と娘を呼んだ。
やっと娘に会わせることができたというのに、臨終にはほんの数分、間に合わなかった。
夫と娘を待っている間に、静かにゆっくりと心拍は停止していった。
日付が変わる直前に父、裕一は永眠した。
長かった。
私をあんなにも苦しめた父が死んだ。
殺したいほど憎んでいた父が死んだ。
心の何処かで好きだった父が死んだ。
私はやっと解放されるのか。
一体何から解放されるのだろう?
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