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疎ましい存在
私と姉の裕美が眠る二階の3畳間。
一階の居間では父、裕一が怒鳴り、声を張り上げている。
ドタバタ動き回る音、それに伴う母、美代子の声。
煩さに目が覚めてしまった。
たまにこういう事がある。
正確な時間は分からないけれど、おそらく日付が変わった深夜。
私は耳を澄まして聞いた。
どうやら裕一は、私と、隣で同じように目を覚ました裕美に対する不満を怒鳴り散らしているようだ。
「子供達は俺の言う事全然聞かないじゃないか!生意気な口ききやがって。態度が悪いんだよ!!お前が甘やかしているからだ!」
「お前がそうさせてるんだろう!」
「そんなわけないでしょう」
「子供達を叩き起こしてこい!!」
「子供達はもう寝ているんですから。私から言っておきますから」・・・
酒を飲み帰ってきて暴れ、日頃の鬱憤を晴らしているらしい。
勿論、裕一に対して言われるような態度を取ったつもりはない。
年相応のヤンチャ盛り、それが生意気なのだろうか。
理由は何だっていいのだろう。
ただ暴れて怒鳴り散らす理由が欲しいだけなのだ。
典型的な酒乱の姿態。
家に帰れば妻である美代子と、子供である私達姉妹の存在がある。
酒を飲んで帰宅した時に現実に引き戻され、その存在は疎ましく、いなければいい存在なのだろう。
「もう夜中なんですから近所迷惑でしょう」
「うるさい!美代子お前はいつもそうだ!」
ドタバタの音が近づいてくる。
階段下の辺りにいるらしい。
怖くなった私は、隣にいる裕美と一緒に布団を頭から被り、息を殺した。
(怒るようなことなにもしてないよ、なんでだろう、こわいよ、こわいよ。階段上がってきちゃうよ)
怖くて怖くて、私と裕美は身体を震わせながら、どうか二階にあがってきませんように、、、と願う。
一階のドタバタ音は聞こえなくなり、裕一の大きな怒鳴り声は話し声へと次第にトーンダウンしていき、やがて静かになった。
(ここまでは来ないかもしれない)
そこでやっと私達はホッとして、布団から顔を出す。
ドキドキした心臓がなかなか落ち着かず、深夜だというのに暫く再び眠りにつくことができなかった。
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